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少女奮戦記~アイン・ソフ・オウル~   作者: PONぽこPON
第4章~共和国編~
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悪夢

(あぁ、夢を見ているんだ、あたし)


 夢であるのに、意識も感覚もはっきり感じられる、明晰夢と言うものがある。

 マヤは自分が夢を見ていることを認識する、という不思議な感覚に囚われていた。

 夢の中で夢であることを認識しているのに、目が覚めない、なかなか奇妙な感覚である。


「そう、これは夢よ」


 不意にかけられた笑いを含んだ聞き覚えのある声に、思わずぎょっとして振り向くマヤ。

 周囲にはなにもない、ただただ白い空間だけが広がっているそこに、一人の人物がいた。


「……アリシア……なんで?」


「なんでって? 貴女に会いに来たのよ」


 わざわざ夢の中に入ってね、とアリシアはほくそ笑む。


「会いに来たって、何のために?」


「そうねぇ、いろいろ良いことしてあげようと思ってね」


 アリシアはわざとらしく人差し指を唇にあて、にやりと厭らしく笑う。

 いつの間にか、アリシアの亜麻色の髪が伸び、マヤの周囲を取り囲んでいた。


「……ッ!」


 マヤがそれに気がついた時には既に遅く、髪は生き物のようにうねり、一斉に彼女に襲い掛かってきた。

 必死に身をよじり、逃れようとするマヤの、手に、足に、身体に、次々と髪が絡み付いてくる。


「いやッ! 放してッ! ……あッ!」


 無数に絡み付いてくる髪に、やがてマヤは全身を縛り上げられ、身動きすらできなくされてしまう。

 ギチギチと全身を余さず締め上げられ、たまらず悲鳴を上げるも既に呼吸さえ儘ならない。

 呼吸困難で意識が落ちる寸前、全身の拘束が緩み呼吸が許される。


「かッ、はぁはぁ……あぐぅッ」


 空気を求めて大きく開けた口の中にまで、髪は侵入し舌をも絡めとった。


「どう? 私の髪は?」


 アリシアが無邪気に聞いてくる。


「は……なし……て……」


「い、や、よ」


 アリシアは楽しそうに囁く。


「このまま、貴女を殺すのは簡単。でも私の目的はそうじゃないの」


 アリシアの髪が一度、脈打つように震えた。


「……ッ!」


 マヤの身体が答える様に震える。

 いつの間にか後ろに回り込んだアリシアが、マヤの身体を抱き締めた。


「貴女は強いわ。痛みにも悲しみにも、でもね」


 アリシアはマヤの耳元に、優しく妖しく囁きかける。


「苦しかったでしょ? 辛かったよね? でも、もう苦しまなくてもいいようにしてあげられるの」


 全てを委ねてしまいたくなるような、蠱惑的な響きがあった。


「私のモノになれば、貴女が感じる痛みも悲しみも恐怖も、喜びだって、(よろこ)びに変えてあげる」


 アリシアの吐息が、媚薬の様にマヤの鼻腔を刺激する。


「だから、私のモノになりなさい」


 アリシアは震えるマヤに、命じる様に言い放つ。


「……ッ」


「なあに?」


 何かを言いかけたマヤの、口の自由を少しだけ許す。





「嫌ァッ!!」


 マヤはベッドの上で跳ね起きた。荒い息をつき両肩を両手で抱き締める。


「……夢?」


 確かめるように、そう呟く。


「あ~あ、起きちゃった」


 残念そうに呟いたアリシアの声に、弾かれたようにそちらを見るマヤ。

 いつもの使用人の服を着たアリシアがそこにいた。


「折角いい夢見せてあげてたのに」


「何がいい夢よ」


 悪夢だわ、とマヤは言い返す。


「あら、満更でもなかった癖に」


 茶化すアリシアを、殺意すらこもった目で睨み付ける。

 マヤは胸元に吊り下げていた魔導結晶を取り、魔法の発動準備をした。


「大人しくしなさい!」


 拘束の魔法を発動するも、あっさりとアリシアの抗魔法に掻き消される。


「大人しくするのはどちらかしらね?」


 マヤに瞬時に近寄り、魔導結晶を握るアリシア。

 大して力を入れた様子もなく、魔導結晶は粉々に砕け

 散った。


「我が名はアリシア・ヨミ・ウェグヴィエラ。欲望の魔王ウェグヴィエラよ」


 アリシアから圧倒的な魔力が放出される。その魔力をまともに浴びせられ、マヤは一瞬、全身が硬直した。

 その隙に、アリシアは自分の唇をマヤのそれにそっと触れさせる。

 状況が飲み込めず、目を白黒させるマヤを見つめ妖しく微笑んだ。


「今日は貴女の初めてを一つ奪ってあげたわ」


 満足そうに微笑むアリシア。


「次に会うときは何を奪ってあげようかしら?」


 やっと意味を理解し、マヤは愕然とする。


「全部奪っちゃう前に、アリシア様の奴隷になります、って言えば夢の続きをしてあげる」


 良く考えておいてね、と嗤ってアリシアは闇に溶けるようにマヤの眼前から消えた。


「誰が……奴隷なんて……」


 血を吐くように呟くマヤの目から涙が溢れる。絶望なのか恐怖なのか、はたまた悔しさのためか、マヤ自身にも良く分かっていなかった。


アウトかな

セーフかな


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