魔導具、作ってみました
またも、ぼろぼろになりながらもマヤは生還した。
駆け込んだ林で、偶々、見覚えのある巨大な岩を見つけたため、さほど迷わずに帰って来られたのだ。
「やっぱり、林の中とかの特徴的な地形は覚えておくものね」
幼い頃、男子に混じって山野を駆け回って遊んで迷子になった経験が、こんなところで役に立った。
雪割り花の蜜はその足でトベクさんのお宅に届けておいた。
「奥さん泣きそうなくらい喜んでたな」
ふと、確かな満足感を感じる。
「さてと、日報やっつけて早く申請出さないと」
気合いを入れ直し、書類との格闘を再開する。
しかし、結局日報だけでほぼ徹夜となってしまった。
翌日、マヤは書類机の前で腕組をして、唸っていた。
「駄目だ、どう考えても、書類仕上げるより溜まる方が早い」
何かいい方法がないか、考えていた。
よく今までの人はこなせたな、と思う。
実際は、書類を上げるほどでもないものは省略してよい、という規定を使い、いくつか手抜きをしている役人が多いのだが、マヤはまだそれに気が付くほど、仕事に慣れていなかった。
意味もなく机の引き出しを開ける。取り敢えず入れておいた予備の起動用魔導結晶が幾つか転がっていた。
「ん、そうだ、出来るかも」
脳裏に閃くものがあったマヤは、直ぐに立ち上がり、道具を出してきた。
板を用意し、そこに魔方陣を彫り始める。
自分が教わった魔導理論通りに、板に力を持つ文字といわれる魔法文字を刻み付けていく。
時折、魔力がちゃんと流れるかを確認するために、自分の魔力を微妙に流したりしながら、彫ること半日。
「よし、これで多分大丈夫」
魔方陣の一角に魔導結晶を嵌め込み、作業を終えた。
「試してみましょう」
白紙の日報を板の上に置き、指を魔導結晶に添える。
魔力を流すと彫り込んだ魔方陣がゆっくりと輝きだし、白紙の日報の上に文字が流れるように現れてくる。
「うーん、まだ魔力に無駄が多いような気もするけど、一応完成かな」
これでかなり捗るぞ、と満足げに呟く。
頭のなかで考えた文章が、魔方陣の上に置いた紙に転写される、即席の魔法具である。
「これで、要請書まで、一気に仕上げちゃおう」
書類の作成速度が劇的に上がり、どんどんと処理できる。
しかし、いい気になって魔力の無駄が多い魔法具を使いまくった結果、その晩、魔力切れでぶっ倒れることになってしまった。