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少女奮戦記~アイン・ソフ・オウル~   作者: PONぽこPON
第3章~暗殺者編~
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束の間の勝利

 海原に倒れ伏した大海龍の上に、アインは敢然と立ち上がった。


「……なんとか、やれた」


 アインの操作室の中で、中程まで金色の魔力に侵食されつつある両腕を見ながら、マヤは息を吐く。


「あらあら、大海龍まで倒しちゃったのね」


 アインの目の前に、台詞と共に虚空からアリシアが現れた。

 マヤが咄嗟に身構えるが、その動きをアリシアは嗤う。


「無理しなくていいのよ。限界でしょ?」


「あんたを野放しに出来ると思う?」


「今の貴女に私をどうにか出来ると思うの?」


 クスクスと可愛らしく笑って、アリシアが尋ね返す。


「ゲームは貴女の勝ち。今回のところは大人しく引き下がってあげるわ」


 見下すアリシアの物言いに、マヤは思わず操縦桿を握っていた。

 アインが左腕の射出槍と、右腕の魔導砲を構える。


「大人しく投降しなさい! さもないとただじゃ済まさない!」


「貴女にかけた呪いは解けてないのよ? 無理はしないことね」


「うるさいッ! 動くな!」


「虚勢を張っちゃって、可愛いわね」


 アリシアは立てた右手の人差し指を、顔の前で振りながら続ける。


「いい? ゲームのルールは簡単。貴女が魔力を使いきってしまえば私の勝ち。そうでなければ、貴女の勝ち」


 次のゲームを楽しみにしててね、と言葉を残しアリシアは虚空に消えた。


「くそッ! 逃げたか」


 逃げてくれた、が正解ね、と心の中でマヤは思う。


「まったく、冗談じゃないわ……」


 アイン・ソフ・オウルの魔力の侵食とアリシアの呪い、どちらも頭が痛い問題である。

 限界を超えて魔力を使えば、いずれは自分はアイン・ソフ・オウルと一つになり、アリシアの支配を受けることになる。


「アリシアの目的は、アイン・ソフ・オウルを自分の物にする事?」


 マヤにはそれくらいしか思い付かない。アイン・ソフ・オウルの莫大な魔力をアリシアの自由にさせる訳にはいかなかった。


「……ホント、冗談じゃない……」


 絶対に思い通りにさせるものか、という決意はあるが、今後アリシアが仕掛けてくるゲームとやらも気にかかる。


「でも、なんとかするしかないよね」


 そのためには、マヤ自身もっとするべきことが有る。


「強くならないと……」


 少なくとも、アリシアのくだらないゲームとやらを、撥ね退ける程度の力は付けなければならない。

 マヤは操作席に身を沈め、深く溜め息を付く。

 アインの周囲では、飛竜がなんとか一掃され、救命活動が開始され始めていた。




「もう! 心配しましたのよ!」


 王都に帰還した後、ギルド討伐隊の一人として救援に来ていたエルザに、出会うなりマヤは抱き締められた。


「ちょっと、エルザさん? 待って待って」


 ぎゅ~っと抱き締められて、思わずパンパンとエルザの背中を軽く叩くマヤ。


「待ちませんわ。少なくとも貴女がもっと自分を大事にすると約束するまでは、このままですわ」


「分かりました! 約束します! だから放して! 皆見てますから!」


「もう一人で古代龍に突っ込んだりしません?」


 心配そうにエルザが尋ねる。


「はい! 一人ではもうやりません!」


 マヤが反射的に答える。


「約束ですわよ」


「約束します!」


 ならばよろしいですわ、といってエルザはようやくマヤを解放する。


「お嬢さん方、取り込み中すまんな」


 と、そこへ杖をついたハイネマンが声をかけてきた。


「ハイネマン一等陸佐、もう動かれても大丈夫ですか?」


 咄嗟に敬礼をしつつ、マヤが尋ねる。


「傷はあらかた塞がったよ。あの時は助かった、ありがとう。それでな、うちの大隊の連中が生還祝いで一杯やるんだが、ミズキ三等陸尉にも参加してもらおうと思ってな」


 珍しく歯切れの悪い口調で、ハイネマンは告げる。


「俺も命を助けられてるからな、少し位旨いもん食ってもらおうと思ってな」


「そちらがよろしければ、喜んで参加させていただきます」


 マヤが笑顔で答えるが、隣のエルザは渋い顔をした。


「下心が見えますわね。保護者としてわたくしも同席させて頂いてよろしくて?」


「構わんさ、宴席が華やぐからな」


 ハイネマンは軽く請け負う。


「コッフォフェルトのお嬢様の頼みとあっては、無下にはできんしな」


 じゃあ、予定の時間に、第7魔導騎兵大隊の詰所に来てくれ、と言い残しハイネマンはその場を立ち去った。


「さてと、あたしも報告書書かなきゃいけないんで、一旦工廠へ戻ります」


「ええ、また後程」




 エルザとも別れ、工廠の待機室までもどってくると、机の上に見慣れない封筒が一通有るのに気がつく。


「これは……?」


 裏返してみるが、差出人の名はない。

 封を切り、中身を確認したマヤの手がはたと止まる。

 それはジャックからの手紙だった。


『色々迷惑をかけた、まずはそれを詫びたい。俺はしばらく姿を隠す。お前の言葉通り、しばらくは殺しは止めだ。その間に自分に向き合ってみようと思う。正直に言うとお前と会えて嬉しかった気持ちもある。だから、お前も自分を大切にしてくれ。あいつもたぶんそう思ってるはずだ』


 ジャックの素直な気持ちが記述されていた。


『最後に、いずれはまたお前に会いに行く。そのときまで、壮健でいてくれ』


「ジャックさん……」


 マヤは手紙を胸に抱き、しばらく瞳を閉じていた。自分のやったことに間違いはなかったと、少なくともジャックに気持ちは伝わったことを素直に喜んだ。

 しばし、感慨に耽っていたマヤだったが、乱暴にドアがノックされる。


「嬢ちゃん。こっちの書類も処理頼むわ」


 入ってきたのはマクダニエルだ。抱えるほどの書類の山を持っている。


「報告書に支払調書、それに、追加調達品の購入伺い、まだまだあるぞ」


「……また、凄い量ですね」


「今日中に処理して回してくれ、次の支払に間に合わん」


「……分かりました……頑張ります」


 書類の山を見て、日常に帰ってきたことを実感するマヤだった。

第3章はこれで終わりとなります。

また、4章も少しおいたら始めたいとおもいますので、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。

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