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少女奮戦記~アイン・ソフ・オウル~   作者: PONぽこPON
第3章~暗殺者編~
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奮戦、第7魔導騎兵大隊

「ということで、すまんが大隊員諸君には命を捨ててもらう」


 ハイネマンが口を開く。その重々しい現実に大隊員は皆黙り込む、筈だった。


『大隊長殿は、どちらでミズキ三等陸尉と知り合ったんです?』


『第三王女近習で男子人気ナンバーワンと知己とは、大隊長殿も隅に置けないですね』


『俺も大隊長みたいに彼女に格好つけたいッス』


「待て貴様ら、何を言っている」


 思いがけない大隊員の反応に、戸惑うハイネマン。


『ご存知無いんですか? マヤ・ミズキ三等陸尉は、今若手の王国軍人からは人気が有るんですよ』


 大隊副官までそう言ってくる。


「そうなのか?」


『人気度で言えば、アドルフィーネ殿下に次いでくらいの人気が有ります』


「はぁ?」


『主にその豊満な肉体と、ちょっと垢抜けない雰囲気、それとここ最近の活躍によるものですが』


「そ、そうなのか……」


『まあ、そこら辺の事情は後でお聴き致します』


 副官まで声が冷たい。


「なぁ、貴様ら、戦勝祝賀会に彼女を呼べるとしたら、どうする?」


 ハイネマンは、咄嗟に脳裏に閃いた案を口にする。


『大隊長を盾にしてでも生き残ります』


 副官が悪びれるでもなく、茶化した。


「では、そうしよう。この戦いが終わったら一杯やるぞ! 彼女は俺の責任で呼んでやる」


『『応!』』


 大隊員が声を揃えて唱和した。


「全員生き残るぞ! 各員、奮励努力せよ!」


 大隊長の鼓舞により、戦意を漲らせた第7魔導騎兵大隊は生還の望み薄い、地獄の消耗戦に突入していった。




 前線より後退したマヤは、近衛の支援に注力する。


「左翼を支援している各騎は右翼の支援へ回ってください。左翼はあたしが受け持ちます!」


『一騎で大丈夫か?』


 答えるより先に、マヤは魔力弾を続けざまに撃ち放ち、数騎の魔導騎兵を支援する。支援を受けた魔導騎兵は逆襲に転じ、目の前の飛竜を撃破していった。


「任せてください! 正面が持っている内に押し返さないと!」


『分かった! 各員! 近衛の意地を見せろよ!』


 左翼、右翼共に魔導砲撃が激しさを増す。押し込まれつつあった戦線が、どうにか持ちこたえていた。


「後、3分!」


 ギルド討伐隊の来援までの時間が、果てしなく長く感じられる。

 ちらりと正面戦線を見やると、第7魔導騎兵大隊が奮戦しているのが目に入った。

 だが、このままでは間に合うかどうか、ギリギリといったところか。

 マヤは自身の魔力が、底をついたのに気が付く。

 既に、アインの主魔導炉から魔力を引き出し、自分の魔力として一度取り込んだ後、騎体の制御に使っている状態だ。

 何か一つ間違えば、たちまちアインの制御は失われ戦闘不能となるだろう。

 いつしか、アインから黄金色の魔力が立ち上っていた。魔導炉から魔力が溢れだしている。

 マヤはその事にも気づかず、ひたすらに砲撃を繰り返す。既に並みの魔導炉では、数個が空になる程の魔力を使っていた。


「……後、1分」


 魔力不足で意識を失いそうになるのを、魔導炉からの魔力を無抵抗で受け入れることで強引に繋ぎ止めつつ集中力を維持する。

 他からの魔力を自分に合わせて変化させること無く取り込む事は、有る意味、非常に危険な事である。その魔力を出したものに、意識や身体を乗っ取られる可能性があるからだ。

 マヤは魔導炉の核となっていると思われる、アイン・ソフ・オウルを信じ身体を預けていた。

 意識だけは、しっかりと眼前を見据えている。


『来た! 討伐隊だ!』


 誰かが叫ぶ。

 南方より魔力光が煌めき、砲撃が飛竜を襲う。


『こちらギルド所属、飛竜討伐隊。これより戦闘に加入する』


 多数の魔導砲撃が撃ち込まれ、左翼側の飛竜はみるみるその数を減らしていく。


「第7魔導騎兵大隊は!?」


 正面方向をマヤが振り向くと、第7魔導騎兵大隊が後退してきているのが見えた。

 増援到着により一旦退くことができたか、と安堵するマヤ。


「大隊長殿は?」


 ハイネマンの姿が見えず、手近な騎体に尋ねる。


『……大隊長は撤退支援のため、殿(しんがり)を務めておいでです……』


「なん……ですって」


 正面方向を見ると、多数の飛竜に囲まれて一騎奮戦している魔導騎兵の姿があった。既に奮戦と言うよりは、多勢に無勢という有り様になりつつある。


「救援に向かいます!」


『待て! いくらなんでも単独では無理だ! 一旦編成を整えて……』


「それでは間に合いません!」


 マヤはアインを加速させ、同時に最大出力で魔導砲撃を放つ。砲撃は数体の飛竜を纏めて消し飛ばし、多くの飛竜の注意をアインに向けさせた。


「どッけぇえ!」


 正面の飛竜に突っ込み、左腕の射出槍をゼロ距離で起動する。

 金色の魔力が込められたその槍は、飛竜の胴体をぶち抜き大空に飛竜の残骸を撒き散らした。

 高速で突出したアインは、ハイネマンの騎体の背後から組み付こうとしていた飛竜を叩き落とし、隣に並ぶ。


「ハイネマンさん!」


 近寄ってくる飛竜を砲撃で狙い撃ちし、完全に包囲されないよう脱出経路を維持しようと試みた。


『……莫迦者、何故見捨てなかった……』


 苦しそうにハイネマンは告げる。


「もう、誰にも死んでほしくない。それだけです」


『……お前はどこまで未熟者なのだ。……俺を見捨てなかったせいで、お前まで死ぬことになる……』


「死にません。絶対に!」


『……この騎体にはもう魔力が残っておらん。お前だけでも離脱しろ……』


「嫌です。絶対に連れ帰ります!」


 マヤはアインの右腕でハイネマンの騎体を抱え込んだ。


「行きます!」


 アインの背中と両脚に装備された魔導推進機が、強烈な魔力光を発する。

 アインから立ち上る黄金色の魔力が、一段と激しくなった。

 どんッと蹴飛ばされたように加速するアイン。

 後方から迫ってくる火球を、障壁の魔法を展開して受け止める。

 回り込んできた飛竜を行き掛けの駄賃とばかりに、左腕の射出槍でぶち抜き空を駆けた。

 少し下がった所で、展開したギルドの討伐隊と第7魔導騎兵大隊から支援砲撃が飛んでくる。

 マヤはさらに3体程飛竜を射出槍で仕留め、包囲を抜け出すことに成功した。


「ハイネマンさん! 大丈夫ですか!?」


 味方の戦線後方まで戻ったところで、ハイネマンに声をかける。

 しかし、返事はない。ただ魔導通信機から苦し気な息づかいが聞こえた。


「負傷されてる?」


 咄嗟に着地できる場所を探す。現状は海の上だ、着陸地点と言えば限られている。


「あった」


 王都湾の湾口で座礁している、戦艦ホーリーグレイルの甲板なら着地できる広さはあった。


「緊急事態!緊急事態!本騎はこれよりホーリーグレイルに緊急着艦する!」


『なんだと!』


 ホーリーグレイル側が慌ただしく騒ぎ出した。


『後部甲板の艦載騎甲板へ着艦されたし! 着艦した経験はあるか!?』


「ありません!」


『なんてこった! 誘導する! 指示に従え!』


「了解!」


 誘導する声の向こう側で、大丈夫か、素人が一騎抱えて着艦なんぞできるか? 騒いでいるのが聞こえる。

 マヤは誘導側の心配をよそに、ホーリーグレイルの後部甲板に若干もたつかせつつも二騎を着艦させた。


『上出来だ。明日からでも海軍艦載騎隊で活躍できるぞ!』


 誘導員から安堵の歓声が飛ぶ。

 アインの操作室の扉を開け、ハイネマンの元へ行こうと腰を浮かせたマヤだったが、浮かせた直後全身から力が抜け、とす、と操作席に座り込んだ。全身に嫌に冷たい汗が吹き出す。


(今、我との繋がりを断てば、全ての魔力を失うぞ)


 何かが、心に語りかけてくる。


「今……あたしの魔力は……完全に空ってこと?」


 魔導炉からの魔力を引き出し、自分の魔力として使っていたため今まで動けていたが、魔導炉からの魔力が無くなれば動くことすら儘ならない。


「まだ……駄目……あたしに魔力を……頂戴」


 震える手で、操縦桿を握る。埋め込まれている魔導結晶に指を添え、術式を送り込み魔力を引き出す。

 暖かな魔力が送り込まれ始め、マヤの全身の悪寒と震えが収まっていった。

 ハイネマンの騎体を見ると、ホーリーグレイルの作業員達が操作室を開け、ハイネマンを救出しているところだった。


「……状態はどうですか?」


「大分出血しているが、命は大丈夫そうだ! この艦にも救命室があるから心配は要らんぞ!」


 マヤはアインの左腕をハイネマンに向けると、アインの騎体を通じてハイネマンに再生の魔法をかける。


「これで、なんとか」


「協力に感謝する!」


 ハイネマン達が艦内に入ったのを見て、アインの右手で抱えていた魔導騎兵を、ゆっくりと甲板に下ろす。


「よし! まだ戦える!」


 騎体の動きと自分の身体を確認し、マヤは声を上げた。

 ギルドの討伐隊が受け持っている、正面方向を見据える。

 戦況は王国軍側に傾きつつあった。飛竜は徐々にその数を減らされている。

 と、彼方の海原に巨大な水柱が立ち上がった。

 つんざくような咆哮が耳朶を打つ。


「あれは……」


 マヤが呆然と呟く。


「ふふふ、こういう趣向はどうかしらね」


 戦場を見下ろす遥か上空に浮かび、アリシアは一人ほくそ笑む。


「さあ、メインディッシュといきましょうか」


 姿を表した巨大な海蛇にも似たその姿は、災厄級の化け物。


「……大海龍」


 マヤが震える声でその名を呟いた。

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