王都湾上空の乱戦
『迎撃に上がった各騎に告ぐ、これより広域管制を開始する』
王都防空指揮所より、通信が入った。
『状況が逼迫している。王都上空の各騎は直ちに海岸線まで進出、飛竜の迎撃に当たれ。王都の避難は全く完了していない。王都上空での武器の使用は禁ずる』
「了解」
マヤは短く応答すると、アインを加速させ王都西岸にある入江の上空まで進出した。
眼下に入江を塞ぐような形で、停泊している巨大な船が見える。
「ホーリーグレイル上空を通過」
15年前の大陸との戦争終局で大破し着底している、王国の誇る巨大戦艦ホーリーグレイル号であった。
ここをすぎれば外洋となる。飛竜は明らかに外洋から、つまり島国である王国の対岸に位置する大陸側となる共和国から飛来していた。
「また、厄介な真似をしてくれてッ!」
アリシアが呼び寄せたのだとしたら、本当に厄介である。
『こ、こちら王国海軍、戦艦ホーリーグレイル!魔導探針義に感有り!竜の数が多すぎて探針義が真っ白だ!』
眼下の戦艦から通信が入る。大破しているとは言え、まだ艦籍を海軍に残している艦である。一部の機器は生きており、配置されている軍人もいるのだ。そして、戦艦の大出力により、探針義の探知範囲も広い。
『いいか!竜が7分に空が3分だ!竜が7分で空が3分!』
戦艦から悲鳴のような報告が上がってくる。
『海軍は王都港に停泊中の対空駆逐艦、オータム号、ウィンター号を緊急出港させた』
『俺たちを撃ち落とすんじゃねぇぞ!』
前進する魔導騎兵の操者の誰かが茶化した。
『無駄口叩いてないで、竜を叩け!』
指揮所より、至極全うな突っ込みが入る。
『了解!これより攻げ……ッ!』
通信の向こうで息を飲む音が聞こえた。
『火球多数飛来!各騎散開!』
マヤの視界が一時的に明るくなるほどの量の火球が、正面から打ち込まれてくる。
最前線で避け損なった騎体がいくつか爆散した。
マヤはアインを強引に上昇させ、飛竜の群れの上空を取る。
右手に装備されている連装20メルチ魔導砲を放ち、上空から撃ち下ろす形で攻撃を加えた。
飛竜の不意を突き、一体を撃ち落とす。
『ミズキ三等陸尉は現在の位置を維持しつつ、第7魔導騎兵大隊の突撃を支援せよ』
指揮所から指示が飛ぶ。
「ハイネマンさんの大隊か」
マヤの眼下を1個大隊の魔導騎兵が突撃して行く。
『ミズキ三等陸尉、火力支援を頼む。その騎体の火力なら心強い』
ハイネマン本人からも通信が入った。
「はい! 可能な限り支援します!」
『ギルド飛竜討伐隊、後10分で来援します! 大隊規模!』
指揮所より、全域に向けて通信がある。
「後、10分、持たせられる?」
マヤは自分に問いかけた。ジャックを治癒したことにより、魔力は消耗している。いかに自分の魔力を節約し騎体の魔力を使用していくか、難しい魔法の使用を迫られそうである。
第7魔導騎兵大隊が飛竜と接触し始めた。魔力光と火球が飛び交い、大空に炎の花を咲かせる。
マヤは慎重に標的を見定める。
味方に回り込もうとしている飛竜を見つけ、砲撃を叩き込んだ。
数体、同じことを繰り返すと、マヤの存在に気づいた飛竜の一群がこちらに向かい上昇してくる。
「トールさん、信じてるからね」
左腕に装備された射出槍を起動準備状態にしつつ、マヤは祈るように呟く。
右手で支援砲撃を続けつつ、マヤはアインを飛竜の一群に突っ込ませた。
すれ違いざまに、槍を起動させ飛竜の頭に叩き込む。
槍はその頭殻を易々と打ち砕き、飛竜を絶命させる。
アインは勢いそのままに急旋回し、もう一体も同様に襲いかかるが、こちらは角度が甘く頭殻に滑らされた。
「威力は充分! 後は扱い方だけ!」
遠めで使っても空撃ちするだけ、ぶつける覚悟で突っ込む必要がある、と即座に気づいたマヤは自らを鼓舞するかのように吠えた。
乱戦になりつつも、支援砲撃を飛ばしながら格闘戦を継続する。
あちこちに目を配り、神経を磨り減らしつつ戦うことしばらく、自分に向かってきた飛竜はなんとか撃退はした。
支援砲撃が度々疎かになったが、第7魔導騎兵大隊も奮戦しているようだ。
「不味いなぁ、魔力が厳しい……」
自分の魔力が底をつきつつある。それを感じとり、アインの魔導炉から魔力を借りて術式を構築し砲撃を続けた。
この時、勇戦する第7魔導騎兵大隊が西面正面に位置し、両翼を王都防衛の近衛第3大隊が受け持っていたが、近衛の戦力はここ最近の騒動のお陰で低下しており、徐々に押されつつあった。このままでは第7魔導騎兵大隊が飛竜の中に孤立しかねない。
「第7魔導騎兵大隊大隊長へ、意見具申よろしいか」
状況を察知したマヤはハイネマンへ通信を送る。
『ハイネマンだ。具申を許可する』
「両翼が抜かれかかっています。一旦戦線を下げて孤立を避けるべきでは?」
『確かにな。だが、飛竜どもが簡単には下げさせてくれん。せめてギルドからの援護が来ない事には押すも引くも難しいところだ』
ハイネマンは苦り切った声で答えた。
「ギルドからの救援は後5分で到着します」
マヤはちらりと時間を確認し、支援砲撃を続けながら告げる。
『後5分、俺の大隊は持たせる。ミズキ三等陸尉は近衛の支援に向かえ』
「それでは!」
第7魔導騎兵大隊の支援が手薄になってしまう。アインの支援砲撃は、一個中隊に匹敵する火力を持っているのだ。
『大丈夫だ、戦線を維持するだけなら支援は要らん』
「無茶です!」
『このくらい無茶をしないと、現状をひっくり返すことはできん。貴官は近衛を支援しろ』
「……了解……しました。……どうかご無事で」
『案ずるな、後でまた会おう』
近衛の部隊を支援できる位置にまで、マヤはアインを後退させる。
それまで、秩序立てて交戦していた第7魔導騎兵大隊は、徐々に乱戦へと突入していった。




