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少女奮戦記~アイン・ソフ・オウル~   作者: PONぽこPON
第3章~暗殺者編~
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ジャックの拘り、マヤの拘り

「あなたは、なぜ人殺しなんかやってるんです?」


 マヤが歩きながら、小声で尋ねる。


「また、ど真ん中な質問だな」


 ジャックは彼女の真横を歩き、答える。


「言わなかったか? 復讐だ」


 二人は横に並んで歩く、お互いが前に出るのは危険と思っているためだろう、自然と位置が定まった。


「復讐……ですか? あたしを殺すのも?」


「……復讐だ……」


 幾分か沈んだ声で、ジャックが答える。


「エルマさん、という方のですか?」


「調べたのか?」


「多少は……」


 マヤの答えに、ジャックは軋むような声を漏らす。


「あいつはな、真っ直ぐな娘だった。他人の痛みを、自分のそれと同じように受け止めてくれる娘だった」


 ジャックの手がグッと握り込まれた。


「たかが貴族どもの詰まらん争いなんぞで、命を落としていい筈無いだろう」


「でも、それは今あなたがしていることと、どう違うんですか?」


 マヤが我慢できずに口を挟んだ。


「あなたがやっていることは、また、同じ思いをする人を産み出しています」


「お前に何が分かる!」


 血走った目でマヤを見据えるジャック。


「たかが貴族に気に入られたくらいで、やれ勇者だ英雄だなどと持て囃されてるお前なんかに、分かるわけが無いだろう!」


「分かりません! 分かりたくもありません!」


 マヤも負けじと睨み返す。


「でも、それでも、殺しちゃ駄目ですよ」


 少し声を落とし、マヤは囁くように続ける。


「何をしたって、失われた命は戻ってこないんです」


 マヤは自らの過ちを悔いていた。あの時、気を抜かなければ、今もまだ生きていた筈の命を思う。


「だから、弔ってやるんだよ。俺がこの手で」


「それで、あたしを殺して弔いになるんですか? エルマさんが喜ぶんですか?」


 マヤが必死に訴える。ジャックはその姿を見つめ、暫くして口を開いた。


「……貴族どもが悔しがるなら、喜ぶだろうよ」


「あたしはそうは思いません」


「だから、お前に何が分かるんだ」


「あたしも、あれから考えてました。もしあのままあたしが死んで、それで誰かがあなたを殺してくれたとして、それで嬉しいかって」


 マヤは真剣な表情で告げる。


「あたしは嬉しくない。ちっとも」


 いつの間にか、二人の足は止まっていた。


「その顔で、その声で言うのは止めてくれないか」


 ジャックが視線を逸らし、初めて聞くような弱々しい声で呟く。


「あいつが言ってるみたいで、その、辛いんだ」


「だったら、もう止めてくれませんか?」


 二人の間に長い沈黙が落ちる。


「……それはできない。今の生き方をそんなに簡単に変えられる程、軽い気持ちでやってるんじゃない」


「そう……ですか」


 ジャックがゆっくりと口を開く。


「次は全力で殺しにかかる。止めさせたいんなら、殺されるな」


 マヤはジャックの表情から、ある種の決意を見て取った。


「お前が生き残ったら、もう一度話を聞いてやる」


「分かりました。絶対に生き残って見せます」


 マヤも決意を込めた表情でジャックを見返す。


「じゃあ、またな」


 ジャックは軽く手を振り、角を曲がった。


「ええ、また会いましょう」


 マヤはその後ろ姿を、長い間見送った。

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