後ろに居た者
マヤは、停止したアインの操作席を開いた。
すぐ隣では、機能を停止した魔導騎兵から、ヴォルフガングが近衛の隊員たちによって引きずり出されている。
「私は、この腐った王族どもを粛清し、国を救わんとした英雄だぞ!私が王となればいずれは世界すらもこの手に!」
叫んで暴れるヴォルフガングを、数人で取り押さえようとしていた。
「あの糞野郎!」
思わずマヤの口からお下品な言葉が漏れる。
「放せ! 放さんか! 貴様ら! 真に倒すべきは王け……」
突然、ヴォルフガングの言葉が途切れる。
何事がと身を乗り出したマヤが見たのは、ヴォルフガングの胸から生える華奢な手首だった。
「がはっ!」
ヴォルフガングの胸から、腕を引き抜き一振して血を払ったのは、
「アリシア!」
ヴォルフガングが血を吐いて崩れ落ちる。
「アリシア! どうして!」
悲痛な声でマヤは叫ぶ。
「世界をこの手に……ふん、笑わせるわ」
アリシアが、崩れ落ちたヴォルフガングを見下し嘲り嗤う。
「アリシア……?」
「たかが、卑小な人間ごときがよく吠えたわ」
そう言うと、アリシアはペンダントを引きちぎった。
「操られてたんじゃ……ないの?」
ヴォルフガングを親と慕っていたアリシアの豹変に、マヤは動揺する。
「この私が、人間ごときに操られる訳ないじゃない」
マヤを睨み、吐き捨てるアリシア。
その体から、禍々しい魔力が溢れる。
「全部お芝居。なかなかの名演だったでしょ」
魔力に気圧されてか、近衛の隊員たちもアリシアに近づくことが出来ずにいた。
「最初から、あんたの仕組んだことだったの?」
「そ、人間に竜の力を与えたらどうなるか。ま、ゲームね」
「あんた、人間じゃないのね」
「ま、ね、よく悪魔とか魔人とか呼ばれてるわ」
どっちでもいいんだけどね、とアリシアは興味無さ気に話す。
「今回のゲームはここでお仕舞い。また、機会があったら遊んであげるわ」
「素直に逃がすと思ってるの?」
「あなたこそ、私をどうこう出来ると思ってるわけ?」
どっと、物理的な圧力さえ感じさせる魔力が叩きつけられる。
「ぐっ!」
マヤはまともに魔力を浴び、アインの操作席に押し付けられ身動きすら取れなくなる。
「ほら、もっと魔力を込めないと、心臓止まっちゃうかもよ?」
「ふっ……ざ……け……るな!」
マヤは全力で魔力に抗い、辛うじて身を起こす。
「ふ~ん、ま、いいわ、今回は見逃してあげる」
ふっと、魔力の圧力が消える。
「次に合うときは、もっと強くなっておきなさい。さもないと殺しちゃうかもよ」
言うだけ言って、アリシアはその場から姿を消した。
「なに? 不可知の魔法?」
違うな、とマヤは直感する。恐らくもう近くには居ないだろう。逃げた、と表現してもいいかもしれない。
マヤは思わず、思い切り溜め息を付いた。
まかり間違えば死んでいた、という恐怖が後から襲ってくる。
近衛の隊員たちも、ようやく動きだし始めていた。
「なにか、また、厄介な事になった気がする」
操作席に背を預け、ぼやくマヤ。
何かが起き始めた、そんな予感がする。
予想よりも大きなものが動き出していた、そうマヤが知るのは、もっと後の事である。
第3章以降の構成を練り直したいと思います。
次回更新は少し日が空くと思いますが、何卒、よろしくお願いします。




