表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/93

王都決戦

「魔導炉、出力上昇」


 マヤはアインの左手で、剣を抜刀させる。

 右腕の魔導砲をヴォルフガング騎に指向し、二発同時に発砲した。

 同時に騎体を滑らせるように、ヴォルフガング騎の懐を狙う。

 が、高速で接近してきたもう一騎に、刃を受け止められてしまった。


「こいつ、速い!?」


『貴様はそいつと遊んでいろ。私はまず王族どもを殺る』


 ヴォルフガング騎が騎体の向きを変え、王城に魔導砲を向ける。


『そこまでだ、ヴォルフガング卿』


 近衛所属の魔導騎兵が3騎、ようやく現場にたどり着いて警告を発した。


『直ちに降騎し、投降せよ』


『邪魔を、するな!』


 立て続けに放たれた魔導弾が、近衛の騎体を襲う。

 すぐさま、障壁の魔法を展開する近衛騎だったが、魔導弾は容易く障壁を食い破った。


『なっ!?』


 被弾し、各部を吹き飛ばされる。


「そいつの火力は尋常じゃあありません! 気をつけてくださ

 い!」


 マヤが叫ぶが既に遅く、近衛騎は一騎、戦闘能力を喪失した。


「これに乗っているの、アリシアでしょ! お願い、もうやめて!」


 アインと切り結び、隙有らば一撃をと狙ってくる相手に、マヤは必死で呼び掛ける。


「あなたは、こんなことしたくなかった筈!」


 しかし、依然として攻撃の手は弛まない。


「こうなったら、魔導炉を潰すしか」


 だんっ、と突き放し距離を取るアイン。魔導砲を捨て、息を整え剣を正眼に構える。

 砲撃してくる相手を掻い潜り、或いは魔力を込めた剣で砲撃を弾き飛ばし、急接近する。

 掬い上げるようなアインの一撃を受け止めようと、相手は剣を引く。その手元で、アインの剣がくるりと捻り込まれた。

 そのまま、騎体の腹部に突き入れられる。


「魔力元は? そこっ!」


 一瞬で騎体の魔力の流れを読み、魔導炉に剣を突き立てる。

 ガクンと一度大きく身震いし、相手の魔導騎兵は機能を停止した。倒れかかる騎体をアインで抱き止め、操作席の扉をむしり取る。アインで覗き込むと、中に居たのはやはりアリシアだった。意識を失っているのか、席にもたれ掛かり目を閉じ脱力している。その胸が上下に動いているのを確認すると、そっと騎体を横たえた。


『遅かったな』


 アインが立ち上がり振り向くと、ヴォルフガング騎が近衛の最後の一騎を破壊した。


『これで、後は貴様だけだ』


「舐めないでよ、アインもあたしも、あんたには怒ってるんだからね!」


 下段に構え、一気に斬りかかるアイン。しかし、砲撃が大量に飛んでくる。


「なんて火力!?」


『はははっ! 竜どもから得た力さ! そらそら! 逃げんと死ぬぞ!』


 左右に騎体を滑らせつつ、何とか距離を詰めようとするが、砲撃が雨のように襲ってくる。


『ちょこまかと逃げ足だけは速いな!』


 少し苛ついた口調で、ヴォルフガングが叫ぶ。


『では、こうしよう。貴様が一発かわす度に、王都に二発撃ち込もう!』


「なんですって!?」


『面白い趣向だろう?』


 からかうように挑発するヴォルフガング、しかし、マヤは無視など出来ない。


「避けなければいいんでしょう?」


 マヤはすくっと、アインを立ち上がらせる。

 剣を真っ直ぐ突きだし、ヴォルフガングに剣先を示す様に向け

 る。


『観念したか?』


 楽しそうにヴォルフガングが嗤った。


「まさか、今からその首叩き切ってあげる」


『ぼざけ!』


「灯火!」


 灯火の魔法を瞬間最大光量で発動する。同時に


「不可知!」


 不可知の魔法で、騎体ごと包み込むように発動し姿を隠す。


『莫迦なっ! 騎体ごとだとっ!』


 咄嗟にヴォルフガングは騎体を滑らすが、大きな衝撃音があり、ゴトリと右腕が落ちる。


「かわされたか」


 マヤはヴォルフガング騎の背後に駆け抜け、姿を表したアインの中で舌打ちをした。さすがに騎体ごと不可知は魔力の消耗が大きく、そう長い時間使ってはいられない。


『もういい! 貴様も王都も全て消し飛べ!』


 ヴォルフガング騎に魔素が集中し、魔力が一気に高まる。

 大量に魔方陣が騎体前面に展開し、竜が吐く火球のように揺らめいた炎を宿した。


「不味いっ!」


 マヤは全開で障壁の魔法を発動する。アインの両手の平に備えられた特大の魔導結晶から、魔方陣が展開し巨大な障壁を現出させた。

 ヴォルフガング騎から大量に火球が放たれ、アインと王都を襲う。

 障壁の魔法は火球を受け止めると、そのまま消えてしまった。


「また、これかっ!」


 前回の反省から、魔力を全て使ってはいないが、それでも相手の威力が違う。

 アインに残された魔力は少なかった。

 その残り少ない魔力でアインは駆けた。

 火球を放ち、隙が出来たヴォルフガン騎が次発を撃つより早く接近する。

 全力で突っ込み剣を突き立てようとするが、ヴォルフガング騎は左手に障壁を纏わせ、アインの突きを受け止めていた。


『魔力比べ……だな』


 ヴォルフガングが不敵に嗤う。ジリジリとアインの剣を押し返してきた。


「魔力がもう、無くなる!」


 マヤは焦るが、最大稼働している魔導炉はこれ以上出力を上げられない。


「アイン頑張って!」


 みるみる減っていく魔力を、絶望的な気分で感じていた。


「お願い……アイン・ソフ・オウル……力を貸して」


 最後の頼みの綱として、呼び掛けてみる。しかし、反応はない。

 ふと、気が付いた。周辺の魔素が濃くなっている。

 ヴォルフガングの騎体が魔素を取り込むために、術式を展開していたことにも気が付く。


「術式展開……魔素即時充填!」


 魔素を取り込む術式を展開する。

 わずかに魔力が回復した。


「今出来る全てを……!」


 自身の魔力も注ぎ込み、剣を押し出す。


『無駄だな。私の勝ちだ』


 ぐぐっと押し返される。


「まだ、魔力反応装甲に残ってる魔力も使う!」


 障壁を発動していなかった魔力反応装甲から魔力を引き出し、全ての魔力を一点に集中する。


「あたしは負けない! 負けるわけにはいかない!」


 貴女の敗北はすなわち民の死よ、とアドルフィーネの言葉が脳裏をよぎる。


「だから! アイン・ソフ・オウル! あたしに力を貸せ!」



 心の中に言葉が響く。


(我が主の心からの願いなれば)



 急速にアインの主魔導炉から金色の魔力が溢れ出す。


「うわぁぁぁぁぁっ!」


 気合いとともに、剣を突き出す。容易く障壁を食い破り、ヴォルフガング騎の左手を破壊し脇腹へと剣が突き立てられる。

 そのまま、突き込み一気に魔導炉を切り裂いた。

 ヴォルフガング騎から魔力が失われ、その場に崩れ落ちる。

 アインも剣を付き出した姿勢のまま、行動を停止していた。

 急速に魔力が失われ、マヤもどっと力が抜ける。


「……やった」


 何とか意識を失わず、マヤは大きく溜め息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ