王都決戦
「魔導炉、出力上昇」
マヤはアインの左手で、剣を抜刀させる。
右腕の魔導砲をヴォルフガング騎に指向し、二発同時に発砲した。
同時に騎体を滑らせるように、ヴォルフガング騎の懐を狙う。
が、高速で接近してきたもう一騎に、刃を受け止められてしまった。
「こいつ、速い!?」
『貴様はそいつと遊んでいろ。私はまず王族どもを殺る』
ヴォルフガング騎が騎体の向きを変え、王城に魔導砲を向ける。
『そこまでだ、ヴォルフガング卿』
近衛所属の魔導騎兵が3騎、ようやく現場にたどり着いて警告を発した。
『直ちに降騎し、投降せよ』
『邪魔を、するな!』
立て続けに放たれた魔導弾が、近衛の騎体を襲う。
すぐさま、障壁の魔法を展開する近衛騎だったが、魔導弾は容易く障壁を食い破った。
『なっ!?』
被弾し、各部を吹き飛ばされる。
「そいつの火力は尋常じゃあありません! 気をつけてくださ
い!」
マヤが叫ぶが既に遅く、近衛騎は一騎、戦闘能力を喪失した。
「これに乗っているの、アリシアでしょ! お願い、もうやめて!」
アインと切り結び、隙有らば一撃をと狙ってくる相手に、マヤは必死で呼び掛ける。
「あなたは、こんなことしたくなかった筈!」
しかし、依然として攻撃の手は弛まない。
「こうなったら、魔導炉を潰すしか」
だんっ、と突き放し距離を取るアイン。魔導砲を捨て、息を整え剣を正眼に構える。
砲撃してくる相手を掻い潜り、或いは魔力を込めた剣で砲撃を弾き飛ばし、急接近する。
掬い上げるようなアインの一撃を受け止めようと、相手は剣を引く。その手元で、アインの剣がくるりと捻り込まれた。
そのまま、騎体の腹部に突き入れられる。
「魔力元は? そこっ!」
一瞬で騎体の魔力の流れを読み、魔導炉に剣を突き立てる。
ガクンと一度大きく身震いし、相手の魔導騎兵は機能を停止した。倒れかかる騎体をアインで抱き止め、操作席の扉をむしり取る。アインで覗き込むと、中に居たのはやはりアリシアだった。意識を失っているのか、席にもたれ掛かり目を閉じ脱力している。その胸が上下に動いているのを確認すると、そっと騎体を横たえた。
『遅かったな』
アインが立ち上がり振り向くと、ヴォルフガング騎が近衛の最後の一騎を破壊した。
『これで、後は貴様だけだ』
「舐めないでよ、アインもあたしも、あんたには怒ってるんだからね!」
下段に構え、一気に斬りかかるアイン。しかし、砲撃が大量に飛んでくる。
「なんて火力!?」
『はははっ! 竜どもから得た力さ! そらそら! 逃げんと死ぬぞ!』
左右に騎体を滑らせつつ、何とか距離を詰めようとするが、砲撃が雨のように襲ってくる。
『ちょこまかと逃げ足だけは速いな!』
少し苛ついた口調で、ヴォルフガングが叫ぶ。
『では、こうしよう。貴様が一発かわす度に、王都に二発撃ち込もう!』
「なんですって!?」
『面白い趣向だろう?』
からかうように挑発するヴォルフガング、しかし、マヤは無視など出来ない。
「避けなければいいんでしょう?」
マヤはすくっと、アインを立ち上がらせる。
剣を真っ直ぐ突きだし、ヴォルフガングに剣先を示す様に向け
る。
『観念したか?』
楽しそうにヴォルフガングが嗤った。
「まさか、今からその首叩き切ってあげる」
『ぼざけ!』
「灯火!」
灯火の魔法を瞬間最大光量で発動する。同時に
「不可知!」
不可知の魔法で、騎体ごと包み込むように発動し姿を隠す。
『莫迦なっ! 騎体ごとだとっ!』
咄嗟にヴォルフガングは騎体を滑らすが、大きな衝撃音があり、ゴトリと右腕が落ちる。
「かわされたか」
マヤはヴォルフガング騎の背後に駆け抜け、姿を表したアインの中で舌打ちをした。さすがに騎体ごと不可知は魔力の消耗が大きく、そう長い時間使ってはいられない。
『もういい! 貴様も王都も全て消し飛べ!』
ヴォルフガング騎に魔素が集中し、魔力が一気に高まる。
大量に魔方陣が騎体前面に展開し、竜が吐く火球のように揺らめいた炎を宿した。
「不味いっ!」
マヤは全開で障壁の魔法を発動する。アインの両手の平に備えられた特大の魔導結晶から、魔方陣が展開し巨大な障壁を現出させた。
ヴォルフガング騎から大量に火球が放たれ、アインと王都を襲う。
障壁の魔法は火球を受け止めると、そのまま消えてしまった。
「また、これかっ!」
前回の反省から、魔力を全て使ってはいないが、それでも相手の威力が違う。
アインに残された魔力は少なかった。
その残り少ない魔力でアインは駆けた。
火球を放ち、隙が出来たヴォルフガン騎が次発を撃つより早く接近する。
全力で突っ込み剣を突き立てようとするが、ヴォルフガング騎は左手に障壁を纏わせ、アインの突きを受け止めていた。
『魔力比べ……だな』
ヴォルフガングが不敵に嗤う。ジリジリとアインの剣を押し返してきた。
「魔力がもう、無くなる!」
マヤは焦るが、最大稼働している魔導炉はこれ以上出力を上げられない。
「アイン頑張って!」
みるみる減っていく魔力を、絶望的な気分で感じていた。
「お願い……アイン・ソフ・オウル……力を貸して」
最後の頼みの綱として、呼び掛けてみる。しかし、反応はない。
ふと、気が付いた。周辺の魔素が濃くなっている。
ヴォルフガングの騎体が魔素を取り込むために、術式を展開していたことにも気が付く。
「術式展開……魔素即時充填!」
魔素を取り込む術式を展開する。
わずかに魔力が回復した。
「今出来る全てを……!」
自身の魔力も注ぎ込み、剣を押し出す。
『無駄だな。私の勝ちだ』
ぐぐっと押し返される。
「まだ、魔力反応装甲に残ってる魔力も使う!」
障壁を発動していなかった魔力反応装甲から魔力を引き出し、全ての魔力を一点に集中する。
「あたしは負けない! 負けるわけにはいかない!」
貴女の敗北はすなわち民の死よ、とアドルフィーネの言葉が脳裏をよぎる。
「だから! アイン・ソフ・オウル! あたしに力を貸せ!」
心の中に言葉が響く。
(我が主の心からの願いなれば)
急速にアインの主魔導炉から金色の魔力が溢れ出す。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
気合いとともに、剣を突き出す。容易く障壁を食い破り、ヴォルフガング騎の左手を破壊し脇腹へと剣が突き立てられる。
そのまま、突き込み一気に魔導炉を切り裂いた。
ヴォルフガング騎から魔力が失われ、その場に崩れ落ちる。
アインも剣を付き出した姿勢のまま、行動を停止していた。
急速に魔力が失われ、マヤもどっと力が抜ける。
「……やった」
何とか意識を失わず、マヤは大きく溜め息をついた。




