表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/93

訪問者

「おい、嬢ちゃんは居るか!?」


 数日たったある日の午後、控え室で待機していたマヤの下へ、マクダニエルが駆け込んできた。


「ちょっと、来てくれや」


「何事ですか?」


 マヤが驚いて尋ねる。


「工廠にお客さんなんだがな、なんでも、大事な話が有るから分かる人を呼んで欲しいんだとよ」


「で、なんであたしなんです?」


「お前さん情報局付きだろ? しかも今工廠に居る人間の中で、嬢ちゃんが一番階級が高いんだよ!」


「そうなんですか?」


「そうだよ!」


 少しズレた会話をしつつ、工廠の警備員室へと向かう。

 部屋に入ると、そこには年の頃15,6の亜麻色の髪を伸ばした、貴族に仕える小間使い風の衣服を纏った少女がいた。

 その少女は部屋に入ってきたマヤを見て、可愛らしい顔に張り付けていた緊張を少し和らげる。

 年の近い、同性の相手だからか、とマヤは察した。


「お話が有るそうだけれど?」


 努めて明るく、マヤは声をかけ少女の正面の椅子に座る。


「あ、あ、あの!」


 緊張からか、舌が縺れて上手く喋れない少女。


「大丈夫、落ち着いて」


 マヤは少女の手を握り、優しく話す。


「わたし、アリシアって言います!あ、あの、ヴォルフガング伯爵のお家で、お仕事してます」


「うん」


 マヤが相づちを打つと、少女がつっかえつっかえ喋り始めた。


「そこで、ご主人様が、この間この国をひっくり返すって、仰ってて」


 少女が泣きそうになりながら話す内容は、物騒な物であった。

 竜を操り国を混沌に陥れ、その混乱の中で王族を廃し自分が国の実権を握ろうと画策していると言うのだ。


「わたし、一生懸命止めてくださいってお願いしたんですけど、聞いて頂けなくて、でも、ご主人様に罪を犯してほしくなくて、何とか」


 ぼろぼろと、大粒の涙を溢し始めるアリシア。


「わたし、ご主人様が親代わりなんです。だから、どうか、ご主人様が罪を犯す前に止めて頂きたくて」


「おい、嬢ちゃん。どうするよ?」


 マクダニエルがこんな神妙な表情をするのを、マヤは初めて見た気がした。


「どうって、ほかって置けませんよね」


 マヤは自分の護衛に付いている、王女近習の衛兵に振り向く。


「マイヤーさん、直ぐに殿下に連絡して頂けますか?」


「私はあなたの護衛ですよ!?」


「緊急時の連絡係りとして、使ってもいいと殿下に許可貰ってます」


「ですが!」


 王女側には秘匿通信の受信機が置かれていない、現状、機密性の高い報告は人が走るしかなかった


「何なら、誰か護衛の方が来られるまで、アインに乗ってますから」


「分かりました。努々油断なさいませんように」


 しぶしぶ、マイヤーは王城へ向かって駆け出した。


「よし、アイン動かすぞ!急げ!」


 マクダニエルが続いて外に飛び出す。


「アリシアさん、一緒に来てくれる?」


 マヤがアリシアの手をとり、優しく伝える。


「どこに行くんですか?」


「あたしにとって、世界一安全な所かな?」


 問いかけるアリシアにマヤは微笑み返した。




 アインの狭い操作席に、マヤはアリシアを膝の上にのせ二人で座っていた。


「流石にちょっと狭いか」


「大丈夫ですか? 重くないです?」


「大丈夫、大丈夫」


 ほぼ、二人密着した状態になる。


「副魔導炉定格出力到達、主魔導炉始動」


 アインの動力が起動し、操作席が明るくなる。


「ふぅん、これが」


「何?何か言った?」


「あ、いえ、初めて見たので」


 アリシアが興味深そうに回りを見渡す。

 その胸元のペンダントに、マヤは微かな魔力を感じた。


「そのペンダント?」


「あ、これですか。ご主人様から15の誕生日に頂いたんです」


 嬉しそうにペンダントを握りアリシアは話す。


「初めての贈り物なんですよ。だからいつも身に付けてるんです」


「大事な物なんだ」


 妙な魔力を感じ眉を寄せたマヤだったが、アリシアの嬉しそうな態度を見て笑顔に戻る。


「少しの間、窮屈だけど我慢してね、もたれてくれていいから」


「はい、なんか安心しますね」


 マヤにもたれ掛かったアリシアは、やがて、微かに寝息をたて始めた。


「疲れてたんだね」


 マヤはそっと呟くと、アリシア頭をゆっくりと撫でる。


「今は休んでね」


 マヤはアリシアの体重と体温を感じながら、周囲に気くばり続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ