格闘(書類)
結局、書類に必要な諸々を集めるのに丸3日かかった。
その間にも、村人から様々な相談を受ける。
曰く、納屋を取り壊ししたので税金はどうなる?
曰く、赤ん坊が生まれたので、手続きしたい。
曰く、僕たち結婚しました。
曰く、隣の家からすごい怒鳴り声が聞こえる、喧嘩してるんじゃないか?
などなど。
「流石に手が回らないわ……」
その日の処理した案件を記載する日報に、報告を記入しながらマヤはボヤく。すでに日はとっぷりと暮れ、辺りは真っ暗である。
んっ、と伸びをして天井の魔導灯を見る。魔導灯は起動させるのに魔力を微かに使うが、起動してしまえば、魔導結晶が周辺の魔素を汲み上げ、魔力へと変換し明かりを灯し続けてくれる、便利な魔法具である。
「日報書いてるだけで、今日が終わっちゃうわよ、全く」
このままでは、何時までたっても討伐隊派遣要請の書類が完成しない。
さらに問題があった。
「被害額ゼロで派遣要請したところで、書類通るものなのかしらね?」
通らないだろうな、とマヤも思う。
何か被害に計上できる物はないか、と考えてみるが思い当たらない。
「書類通すために被害でっち上げてもな~」
ペンを上唇の上に乗せ、バランスをとる。
「監査入ってバレたらそれこそ終わりだし……」
う~む、と考え込む。
「とりあえず、日報終わらせないと」
と、日報に向き合ったとき、駐在所の扉がノックされた。
「あ、は~い、どうぞ~まだ開いてます」
日報と格闘しながら、マヤは返事をする。
「ごめんくださいね」
そう言いながら入ってきたのは、
「あ、トベクさんの奥さん、どうされたんです?」
妙齢のいかにも農家の奥様といった女性であった。
「子どもが熱を出してしまいまして、お薬も切らしてしまっていたので、あったら頂きたいのですが」
眉を寄せ、心配そうにそう話す。
「ライリー君がですか? それはいけませんね」
ちょっとお待ちください、とマヤは答え、薬箱を開ける。
「えーと、解熱剤は……」
目当ての小瓶を見付け取り出す、が
「あちゃー、丁度無くなってる」
「そうですか……」
失礼しましたと、肩を落とし帰ろうとする夫人にマヤが咄嗟に声をかけた。
「ちょっと待ってください。たしか雪割り花の蜜は解熱に効きましたよね?」
「そうですが」
きょとんとして聞き返す夫人。
「今の時期なら、花が咲いてます。ちょっと取ってきますよ」
「えっ? それは危険ですよ!」
驚いて夫人は止める。雪割り花は確かにこの雪の中花を咲かす植物だが、高山植物でもある。闇の中、今から山に登り取ってくるのはかなり危険、どころか自殺行為に近い。
「大丈夫です。昼間に咲いている場所は見付けてますし、ちょっとした道具もあります」
蜜を集めて売って小遣いにしていた経験から、花の場所を覚えることを癖にしていたのが役に立った。
「直ぐ戻りますので、お家で待っててください」
防寒着に袖を通しながらマヤは夫人に声を掛ける。それを見て止めても無駄と知った夫人は、お気をつけて、と言うしかなかった。