王女の真意
「まさか本気で近習に入れられるとは……」
マヤは王城に向かいつつ、思わず呟いた。
アインについては既に近衛の工廠に搬入してあり、整備が行われている。騎体の面倒はわざわざ、マクダニエル達が出張して見てくれているはずだ。
「あたしが近習に行って何するんだろう?」
当然の疑問であった。王女にも話したが、マヤの得意分野は魔法である。さほど活躍の場所があるとは思えなかった。
しかも王女の近習ともなれば、名家の子女が所属する社交会的な場でもある。ただの田舎出のマヤにとって、居心地悪いことは容易に想像できた。
「命令なら従います、なんて言わなきゃ良かったかな」
はからずも溜め息が出る。
そうこうしているうちに、第三王女近習の詰所に到着する。
立番をしている衛兵に氏名、用件を告げ、しばし待つと、やがて室内に招き入れられた。
マヤの肩書きは、今は王国軍統合本部情報局付き三等陸尉であ
り、近衛第三王女近習出向扱いとなっていた。つまり、身分は情報局に置いたまま、近習へ出向している事になる。
「情報局に身分を置いたままってことは、何かやるおつもりかな、殿下は?」
ぼんやりとそんなことを考えていると、王女から呼び出しを告げられた。
慌てて、指示のあった私室へ向かう。
「どう? 私の近習の居心地は?」
部屋に入るなり、王女に出し抜けに聞かれた。
「まだ、入ったばかりですのでなんとも申し上げようが……」
「そう? 私の近習は実力主義だから、頑張れば皆認めてくれるよい子達よ」
無能なら酷い目に合う訳ね、とマヤは内心呟く。
「ところで、今日呼んだのは先日の王都飛竜襲撃事件の黒幕についてよ」
「実行犯は捕らえた、とお聞きしてますが」
「実行犯だけね。そこから糸がプッツリ切れて、真犯人の手掛かりが無かったの」
やれやれ、とばかりに手を上げ首を振る王女。
「ただ、怪しい動きをしている貴族を、何人か掴んだわ」
「あたしが潜入しましょうか?」
「貴女は自分で思ってるよりも、連中に恨まれているのを自覚すべきね」
王女はマヤの無自覚さに、思わず嘆息する。
「潜り込んだら最期、多分死体も見つからないわ」
「うぇぇ!」
マヤはようやく、自分の置かれた状況の不味さに気がついた。
「貴女を、私の近習に入れたことで、連中に私が敵対することを宣言したようなものなのよ」
王女は視線を険しくし、宣言するかのように続ける。
「だから、徹底的に追い込む。貴女は連中の暴発に備えて、魔導騎兵をすぐ使えるようにしておいて」
工廠に控え室を用意してあるから、と王女はマヤに告げる。
「護衛も近習から出すわ、とにかく、身の回りには注意して、一人で危ない事をしないように」
「は、はい」
「これはね、私の直感なんだけど、どうも外国も噛んでる気がするの」
「外国ですか?」
「そう、ひょっとしたら人間でない何者かもいるかもしれない」
「人間でない、と言うことは?」
「魔族とか、悪魔とか言われている連中ね、正直、お伽噺くらいの信憑性だけど。竜を自由に操るなんてそんなことが簡単に出きると思う?」
「思いません」
「だよね。だから誇大妄想と思われようとも、私は関与を疑ってるの」
王女はマヤに真摯な眼差しを向ける。
「だから、気をつけて。どんな手を使ってくるか分からないから」
「分かりました」
深く礼をするマヤに、王女は軽く手を振って会話の終了を告げた。




