召喚
明くる日、休息を言い渡されたマヤは、一人王都に借りた下宿で朝から部屋に籠っていた。
鎧戸を閉めた薄暗い部屋の中で、ベッドの上で膝を抱え毛布を被り、シーツの皺をただぼんやりと見続けている。
と、扉がノックされた。
「よろしくて、入りますわよ」
「……」
掠れた声が出たか出なかったか、といった具合でマヤは微かに呻いただけだった。
「あら、随分な有り様ですわね」
入ってきたのはエルザだった。無遠慮に部屋を横切ると、勝手に鎧戸を開け放つ。
「気が滅入っているときに、暗くしておくのは逆効果ですわよ」
「……あなたに……何が分かるんですか……」
マヤが掠れた声で小さく呟く。
「少なくとも、今のままの貴女をほうっておきたくは無い、と思いますわ」
エルザは真剣な表情をしてマヤに向き直る。
「ほうっておいてください……今はなにもしたくない……」
エルザに視線を合わせず、ぼそぼそとマヤは続けた。
「あなたに今のあたしを見てほしくない…」
「そういうわけには参りませんの」
そう言うとエルザはマヤの手をとった。
「触らないで!」
マヤが絶叫し拒絶する、が、即座にハッと表情を強張らせた。
「ごめんなさい……本当にごめんなさい…でも、無理」
顔を膝に埋め、泣き出してしまう。
「仕方有りませんわね」
ふう、と溜め息をつくエルザ、正直、自分だけでどうこうできる問題ではない。マヤを何とかすため、切り札を切ることにした。
「マヤ・ミズキ特務曹長、王城への召喚命令ですわ」
はらり、と書類をマヤに見せる。職責でもって強引に部屋から引きずり出そう、という作戦だった。立案者はエルザともう一人いる。
「……アドルフィーネ王女殿下……ですか?」
反射的に書類に目をやり、そこに示された名前を確認してマヤは微かに驚く。
「そういうことですわ、さ、礼服にお着替えなさい」
顔も洗って、とエルザが急かす。
「……行かなきゃ……駄目ですよね……」
「駄目ですわ」
「……分かりました」
マヤが身を起こし、ノロノロと動き始めた。
数刻後、二人は王城の第三王女私室の前まで来ていた。
ここに来る間、エルザがほぼ顔を見ただけで衛兵に通されたことに、マヤは驚くと同時に流石公爵家、と妙な感心をしていた。
ちなみにマヤは、誰何してくる衛兵に召喚命令と身分証を見せつつ名乗り、厳しくチェックされてようやくここまで入らせてもらえた状態だ。
「私室、ですか?謁見の間ではなく?」
マヤは訳が分からないといった様子で、エルザに聞いていた。
「こちらでよろしいですわ」
自信ありげにエルザは答える。
そこへ、女性の衛兵が近付いてきた。
「マヤ・ミズキ特務曹長ですね?」
「はい」
見れば、衛兵は手に何やら手枷の様なものを持っている。
「お手を。魔封じの枷です。規則ですので魔法の心得の有る方にはつけていただきます」
「分かりました」
素直に手を出すマヤ。両手首に枷がかけられた。思ったよりも軽く、作りも華奢である、パッと見は腕輪のようだ。
「では、殿下がお待ちです」
そう衛兵は言うと、一歩下がり、室内に声をかける。
「コッフォフェルト公爵家ご息女エリザベート様、王国軍特務曹長マヤ・ミズキ様、ご入室されます」
室内から応答があり、重厚な作りの扉がゆっくりと開かれる。
どうぞ、と衛兵に促され、二人は部屋へ入っていった。




