誤り
『こちらヒューズ三尉、魔力、弾薬消耗のため一旦後退する』
マヤの前方に展開する騎体が戦闘の消耗により、一時的に下がって来た。
『ミズキ曹長、戦闘の続行は可能か?』
王都防空指揮所から問いかけがある。
「残魔力量でまだ戦闘可能です」
マヤは即座に答えると、騎体を前進させた。
『南から襲来する飛竜を押さえてくれ、あと10分で補給中の騎体が再発進出来る』
「了解しました」
通信を終え、マヤは一人呟く。
「飛竜複数相手に10分、なかなか厳しい事言ってくれちゃって」
不利な状況が10分続く、考えるだけで背筋が寒くなってくる。
「無理をしてやられるわけにはいかない、撃退より相手の足止めを優先して」
視界に入ってきた飛竜の群れに、アインを加速させつつ接近していく。
「無駄弾撃てない、絶対当たる距離まで近づかないと」
飛竜が突っ込んでくるアインを認識し、火球を一斉に放つ。その火線を掻い潜り、アインは一体の飛竜に接近した。
驚いたように飛竜が翼をはためかせた瞬間に、魔力弾をその顔面に叩き込み、速度を落とさず離脱する。
一気に飛竜の下方に抜けたアインに、追撃の火球が襲いかかる。
滝のように降ってくる火球を、必死に躱し騎体を上昇へと転ずる。
出力にものを言わせ、飛竜の上方へと駆け上がった。
飛竜を見下ろす位置を取り、再度一撃をと身構えたアインの操作室で、マヤは眼下の惨状を捉える。
先ほどの火球の流れ弾が地表に到達し、そこここで火災を発生させていたのだ。
まだ王都までは距離がある、だが、決して無人の荒野ではないのだ。集落が有り、人が居るはずの土地である。
「……そん……な……」
思わず、絶句してしまうマヤ。
動きの止まったアインに、飛竜の火球が集中した。
魔導装甲が起動し、障壁の魔法が展開する。
連続した衝撃を受け、マヤの意識が一瞬飛んだ。
すぐさま騎体を操り、火球の集中砲火から抜け出す。
アインの騎体を確認するが、魔導装甲が効果を発揮したお陰で致命傷は受けてはいない。
代償として、魔導装甲内に蓄えられていた魔力がほぼ無くなっていた。
もう一度、同じ攻撃を食らえば、恐らく持たないだろう。
「あたしは……何をやってるの!」
自分自身を殺してやりたくなるほどの衝動に突き動かされながら、マヤは自分の軽率さを悔いた。
「人を守る為にこんなことしてるのに……守れてないじゃない!」
衝動のままに飛竜の群れに突っ込む。アインの左手で抜刀し、魔導砲を連射した。
砲撃を受けた飛竜が半身を吹き飛ばされ、もう一体すれ違いざまに叩き切られた飛竜の首が飛ぶ。
火球が集中するが、縫うようにすり抜けさらに一体一刀両断にする。
騎体を翻し、魔導砲を発砲した。アインの魔導砲が咆哮する度、飛竜の断末魔の悲鳴が木霊した。
10分後、救援の魔導騎兵が現場に到着したときには、飛竜の返り血で朱に染まったアインがあるだけだった。




