初任務
マヤがアードバークと合流し、暫く経ったある日。
第21航空基地にて待機していたアードバークに、出動命令が下った。飛竜が人里近くに出現したのだ。
「位置は?」
モリスンが飛行の準備を行いながら確認する。
「中央山脈のガイアスルト山の西側です」
「不味いな、麓に街がある」
アードバークの魔導炉に火を入れながら、モリスンが愚痴る。
『ミズキ曹長、配置に付きました』
アインの操作席から、マヤが報告する。
「2分か、後30秒は早くしろ」
『申し訳ありません』
モリスンから注意が飛んでくるのに返答しつつ、マヤもアインの魔導炉を立ち上げる。
「飛行前点検、異常無し」
アードバークの副操者が報告する。モリスンも確認事項に目を走らせ、異常が無いことを確かめた。
「アードバーク、発進準備完了。管制塔、発進許可求む」
『こちら管制塔、アードバーク、誘導路へ進入を許可する』
「アードバーク了解」
管制塔へ発進許可を求め、返答を確認したモリスンは騎体を前進させる。
「各員、本騎これより緊急発進する」
搭乗員に指示を出し、モリスンはアードバークを発進させた。
「目標の空域に到達」
副操者の報告に、モリスンは目を凝らし周囲を見渡した。
「どこに居るか、だが」
「魔力探針儀に感有り、一時の方向、距離10万メルテ、高度500メルテ」
副操者の報告に、モリスンは軽く頷く。
「10万ならもう魔導騎兵を下ろしたほうがいいな」
「はい、良いと思います」
副操者もモリスンに同意した。
「曹長、魔導騎兵を下ろす。目標は一時の方向、距離10万、かなり低空だ」
アインの操作室に通信を開き、矢継ぎ早に指示を出す。
『目標は何ですか?』
「恐らく火吹き竜、30メルテ級の大物です」
副操者が、魔力探針儀から得られた情報を伝える。
『了解、準備完了、何時でも出られます』
「よし、後方格納庫扉解放!」
アードバークの騎体後方の扉が、ゆっくりと開かれた。
「解放確認」
「魔導騎兵、固定解除、投下開始」
「魔導騎兵、投下します」
一瞬の衝撃の後、固定を解除されたアインが大空へと滑るように放り出される。
アインは空中で手足を伸ばし、姿勢を整えると、推進器から魔力の光を吹き出し、アードバークを追い越して飛竜へと向かっていった。
アードバークから発進して、暫く飛行したアインは、徐々に速度を落とし周囲を警戒する。
「そろそろ、会敵するはず」
マヤは一層注意深く周囲を見渡す。
視線を下方に向けて飛竜を探すが、見つけられない。
『曹長!注意!目標急上昇!』
アードバークから急に通信が入った。
マヤは咄嗟にアインを急旋回させる、とその直後にアインを掠めて火球が飛び抜けていった。
そのまま、強引に上昇するアイン。それを追いかけるように、下方から火球が飛んでくる。
アインに連続した旋回を行わせ、火球をかわす。と、そこに飛竜が高速で突っ込んできた。
ギリギリでそれを避け、飛竜と相対するアイン。
「こいつ、強い」
マヤが思わず唸るように漏らす。
アインが右腕を突きだし、そこに装備された二連の魔導砲から魔力弾を交互に撃ち込む。
するり、と飛竜はそれを避け、再度火球を放ってきた。
「こっのぉ!」
アインを加速させ、火球を避ける。
『曹長!街が近い!流れ弾に気を付けろ!』
モリスンから、注意を促された。
「ま、街ってどっちだっけ!?」
一瞬、方向が分からなくなり、戸惑うマヤ。
その隙を突き、火球が飛んでくる。まともにアインに当たるが、魔導装甲が障壁の魔法を自動的に展開し、火球を弾いた。
「あ、危なかった……」
冷や汗を大量にかきつつ、マヤはアインを操り、ランダムな旋回を行う。
同時に魔導砲の魔力に、追尾と炸裂の術式を込めた。
飛竜の旋回が終わるのを見計らい、アインを空中に静止させる。
飛竜がそれに気づき、火球を放つため姿勢を整えるため、一瞬、大きく翼を振った。
その瞬間、マヤは魔導砲を二門同時に放つ。
それは飛竜が火球を放つのと同時だった。
放たれた魔力弾は飛竜の火球を弾き飛ばすと、逃れようと身をよじった飛竜に着弾する。
轟然と爆発を起こしたそれは、飛竜の半身を吹き飛ばした。
一瞬で絶命した飛竜は、そのまま力無く落下していき、山肌に激突する。
「やった……」
その様子を、被弾に備えて障壁の魔法を展開したアインから眺めたマヤは安堵の溜め息をつく。
『曹長、飛竜の反応が消えた。やったか?』
モリスンから通信が入った。
「撃破したものと思われます。これより、死骸の確認に向かいます」
マヤは返答すると、ゆっくりとアインを飛竜の墜落地点に降下させていった。




