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少女奮戦記~アイン・ソフ・オウル~   作者: PONぽこPON
第1章~ゴルト村編~
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派遣駐在員

「特務魔導吏員、マヤ・ミズキ、派遣駐在員として着任しました」


 全身雪まみれ、自慢のロングの黒髪もボサボサで、正にボロボロ状態のマヤが、ゴルト村の村長に着任を告げたのは、予定より半日以上遅れてからだった。


「予定より遅いので心配しておりました。一体何が?」


 村長は怪訝な様子で彼女に問うた。


「道中、暴れ竜に遭遇しまして。吹っ飛ばされた先が林でなかったら、危うく死んでました」


 疲れきった表情でそう話すマヤ。枝葉の繁った針葉樹と、積もったばかりの新雪に命を救われていたのだ。


「暴れ竜ですと!」


 村長の顔に緊張が走る。


「遂に街道筋にまで出てくるようになりましたか……」


「今まで被害はなかったのですか?」


 マヤは、なんで早く報告してないの!? とばかりに村長に詰め寄る。


「今のところ被害は有りませんでした」


 村長もすまなそうに話す。


「山に行った者が、時折、足跡を見つけてはいたのですが、こちらに降りてきたことは、今までなかったもので」


 実際の被害が出ていない以上、直ぐに救援というわけにも……と村長は言い澱む。


「分かりました、駐在所はどちらに?」


 それなら仕方ない、とマヤは話題を変える。


「三軒隣の家です」


「では、そちらを使わせていただきます」


 一礼して、村長宅を退出したマヤは駐在所へと向かう。


 駐在所は質素ではあるが、ガッシリとした造りの建物で、雨風どころか吹雪でも大丈夫そうなものだった。

 マヤは荷物を下ろすのもそこそこに、備え付けられている魔導通信機の起動用魔導結晶に、その細い指を当てる。


「魔力がまだほとんど回復してないけど、通信くらいなら……」


 暴れ竜との遭遇で使いきった魔力は僅かに回復している、その魔力をかき集め、通信機を起動させる。


「ゴルト村駐在局から本部、聞こえますか」


『こちら本部、ゴルト村、感度良好』


 本部から応答があった。


「派遣駐在員マヤ・ミズキ、現着しました」


『ゴルト村への現着を確認。大分遅かったな』


 通信機越しでも分かる、明らかに不機嫌な態度で本部の役人は応じる。まあ、通常はこんなに遅い時間に現着報告はしないので、そこは仕方がないとマヤは諦める。


「申し訳ありません、しかし、街道で暴れ竜に遭遇しまして」


『暴れ竜だと? つくならもっとましな嘘にしたまえ』


 頭から信じて貰えない。


「嘘ではありません! 被害が出る前に、討伐隊の派遣を!」


 通信機の向こうで大きなタメ息が聞こえる。


『そう簡単に派遣は出来んよ。こちらからギルドに要請するわけだしな。どうしてもというなら、所定の様式で報告書と派遣要請書を提出したまえ』


「それを出せばいいんですね!」


 マヤは念を押すように確認する。


『報告を元に派遣が適切か、本部で検討し後日決定を通知する』


「それじゃあ遅いんですって!」


 思わず悲鳴のような声で叫ぶマヤに対し、本部はいかにも冷酷に返す。


『ミズキ君、派遣の希望は君だけではないのだよ。事態の緊急性に応じて、順次派遣依頼をかけることになる』


「くっ……とにかく、書類は提出させてもらいます!」


 言い捨てて通信を切ろうとするマヤに、本部の役人は幾分か感情のこもった声で呼び掛けてきた。


『ミズキ君、この通信内容は記録には残らん。が、書類を出せば記録に残る。無論、君の評価にも関係する』


 よく考えてから行動したまえ、と言って通信は切られた。


「くっそ! っざけんな!」


 マヤは拳を思い切り机に叩きつけた。魔力不足で頭がクラクラする。


「あたしの評価がどうなろうと、あんなのを野放しにできるか!」


 覚悟を決めて書類を探す。が、その手がふと止まった。


(ギルドに転属させて貰うのに、一定の評価と実績が必要……)


 つまり、ここで下手を打てば彼女の夢から遠ざかる可能性があった。


「それでも、やっぱり野放しにはできないよ……」


 幾分か落ち着きを取り戻した彼女は、再度書類を探す。


「あった、あった。これだ……げっ!」


 目当ての書類を探し当てた彼女は、思わず悲鳴を上げる。

 そこには、

「様式1 巨竜等被害状況報告書」

「様式2-1 巨竜等被害発生位置図(概要)」

「様式2-2 巨竜等被害発生位置図(詳細)」

「様式3 巨竜等被害額(概算)」

 などなど、山程の書類の様式があった。これにさらにギルド討伐隊の派遣要請書まで作らねばならない、そちらには

「派遣経費計算書(詳細)※可能な限り見積もり添付のこと」

 などまである。


「こんなもん、一人でどうしろと……」


 魔力不足もあり、思わず床にへたり込んでしまう。書類を見ただけで、魔力をごっそり奪われた気分になった。

 実際、魔力はほぼ空なので、感覚は正常だな、と心の片隅で自嘲する。


「とりあえず、明日から頑張ろう」


 荷物もほどかず、ベッドへ突っ伏すマヤであった。


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