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模擬戦

『よ~し、基本動作は問題無しだな!』


 マクダニエルの声が工廠に響く。

 アインの騎体に問題が無かった、ということだが、マヤは操作席で思わず愚痴る。


「かなりのじゃじゃ馬ですよ、この子。何回転びそうになったことか……」


『転んでないってことは、制御出来てるってことだろ!』


 マクダニエルがにかっと笑い言い返した。


『後は馴れだな!』


「馴れろって言われても……」


『特訓だな! 今日は良い師匠を呼んどいた! 稽古付けて貰いな!』


「えぇー!」


 マヤは全く聞いてない話に、不満を漏らす。

 アインに魔導通信の着信が入ったのは、その時だった。


『よう、お嬢さんがマクダニエルの野郎が言ってたミズキさんかい?』


 それなりの年齢と経験を感じさせ、それでいて陽気な声が聞こえた。


「そうですけど」


 どちら様です? と聞き返すマヤに、通信の主は気取って答える。


『王国陸軍、第7独立魔導騎兵大隊、ミハイル・ハイネマン一等陸佐だ。大隊長を任せられている。よろしくな』


「失礼しました! 自分は王国軍情報局付き、マヤ・ミズキ特務曹長であります!」


 相手が軍人、さらには自分よりとんでもなく上位の人物だと分かった瞬間、短期間で詰め込まれた軍人としての態度でマヤは答える。


『今日は非番だ、そう固くならなくて良いぞ。それより、その騎体で近衛練兵場の跡まで来られるか?』


『騎体は行けるぞ、嬢ちゃん』


 マヤが答えるより早く、マクダニエルが声をかける。


「何考えてるんですか? マクダニエルさん?」


『なに、ちょっと稽古付けて貰うよう、古い友人に頼んどいたんだ』


 行ってこい、と背中を押すようにマクダニエルが告げる。


「はぁ、ご厚意に感謝、ですね」


 ガックリと肩を落とした後、マヤは気合いを入れ直す。


「飛びます、皆さん下がって下さい!」


 周囲を確認し、アインの推進器を稼働させる。

 ズドン、と地面を蹴りだし、アインの騎体は大空を舞った。

 市街地の外を数度ジャンプし、指定された場所へたどり着く。


『ほう、なかなか良い動きをするじゃないか』


 王国軍正規採用の重厚な外観をした魔導騎兵に乗ったハイネマンが、楽しそうに話しかけてくる。


「恐縮です」


『ほれ、これを使いな』


 ドン、と目の前に10数メルテは有りそうな金属製の棒が突き立てられた。


「これは?」


『訓練用の模擬剣だ、斬撃の魔法をかけると、ただ光るだけの魔導具になってる。騎体にぶち当てても、自動的に障壁を展開するから壊れる心配は無いぞ』


 マヤはアインの右手の魔導砲を地面に置かせると、その模擬剣を引き抜かせた。


「つまり、魔導騎兵でチャンバラをやる、と?」


『そう言うことだ!』


 下段に構えたハイネマンの魔導騎兵が、一気に距離を詰めてくる。


「任務外で、魔導騎兵を動かして、大丈夫なんですか!?」


 下段から生き物のように突き上げてくる一撃を、アインはバックステップして交わし、模擬剣を正眼に構える。


『案ずるな! 自主訓練の名目で許可は取ってある!』


 推進器を使い、滑るようにアインは接近すると、鋭く斬りかかる。


『追尾の魔法も同時に使えるのは大したものだが!』


 その一撃を軽々と受け止め、ハイネマンは剣を滑らせる。アインの手元に、捻り込むように一撃が放たれた。


『追尾の魔法は読みやすい! 使いどころに気を付けるのだな!』


 ガキン、とアインの手元から音が鳴る。しかし、ハイネマンの一撃を、マヤは模擬剣の柄の部分で受け止めていた。


『ほう』


 ハイネマンが楽しそうに呟く。


『目は良いようだな!』


「頭は悪いんですけどね!」


 減らず口を叩き、グッと騎体を押し込む。


「アインなら、力比べに持ち込めば!」


 ハイネマンはスッと騎体を引く。


『力比べではなくて訓練だからな、今日は!』


 引いた勢いのまま、騎体を回転させ大振りの一撃を放つ。

 その一撃に自分の剣を叩きつけ、距離を詰めようとするマヤ。


『思い切りもいいな! 中々楽しみな奴だ!』


 突き掛かってくるアインの剣をいなしつつ、再度ハイネマンは斬りかかる。


「このっ!」


 咄嗟に剣を引き防御しようとした手元で、ハイネマンの剣がくるりと捻られる。


『まず、一本』


 ドンっと、アインの胸が突かれた。

 剣とアインの追加装甲の双方に魔方陣が展開し、障壁の魔法が発動する。


『さあ、次だ!今日は時間がある限り揉んでやる。しっかり学べ!』


 ハイネマンが、明らかに楽しそうに告げる。


「折角ですから、盗むだけ盗んでやりますよ!」


 マヤも自棄糞気味に叫んだ。



 結局、日没まで二人は訓練を続けた。


『中々に骨の有る奴だ。うちの大隊でも務まるぞ』


 うちに来るか? 冗談目かして言うハイネマンに、マヤは疲れきって軽口も出ない。


「すみません、あたしは情報局付きなので……」


『そこは『自分は』だろ、疲れてても気を抜くなよ』


「申し訳ありません」


 マヤは疲れた頭を振り、気持ちを入れ直した。


『まあ良い、久々に楽しかったよ、又鍛えてやるから声を掛けな』


「ご配慮ありがとうございます」


 じゃあな、と言いハイネマンは騎体をジャンプさせ、陸軍駐屯地へと騎体を向ける。


「あたしも帰ろう……」


 マヤは飛行させる余力もなく、騎体を徒歩で工廠まで向かわせるのだった。

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