表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/93

召集令状

「魔法と言うのはね、魔力を使って何らかの効果を得ることを言うの」


 マヤは駐在所で、ゴルト村の子ども達に対して話していた。

 村の親御さん達から頼まれ、子ども達に魔法の基礎を教えていたのだ。

 マヤの実力は既に村の住人には知れ渡っており、是非子どもにと頼まれて、断りきれず教えることとなったのだった。


「私たちの体の中に有るのが魔力。魔力は世界に流れている魔素から、体が無意識に汲み上げて魔力に変換しているの」


「じゃあ、魔力は無くならないの」


 マヤの説明に、子どもの一人が声を上げる。


「体が汲み上げている量はそんな沢山じゃ無いから、一気に使うと魔力が切れちゃうわ」


 だからね、とマヤは続ける。


「自分の体が持ってる魔力を、常に意識出来るようにするのが、まず一番大事なの」


「ねーちゃん、良く切らして倒れてるじゃん!」


 一斉に子ども達が笑う。


「あたしは、駄目な例だから真似しちゃ駄目よ。ただ、魔力は切れると前より少し多く回復するから、自分を鍛えるときは積極的に使っていくといいわ」


 ただし、安全なところでね、と付け加える。


「で、次は術式、これは魔力をどういう風に使うか、っていう設計図みたいなものよ。一番勉強しないといけないところだから、頑張ってね」


 マヤは右手を開いて掌を上に向ける。そこに魔方陣が展開し、光の玉が出現した。


「これは灯火の魔法なんだけど、術式がきちんと組めてれば、こういう風に魔方陣が出てくるわ」


 掌の上の光の玉をふらふら揺らしながら、マヤは続ける。


「術式次第では、魔素から直接魔力を取り出したり、逆に、物に魔方陣を刻んでおいて、魔力を流すだけで魔法を発動したり出来るわ」


「じゃあ、魔導ってなに?」


「魔導とか魔導理論って言われるのは、簡単に言うと術式を組むための学問よ」


 子ども達の質問にマヤは答える。


「実際にはもっといろんなことに使われてるから、本気で魔法使いになりたいなら、しっかり勉強しないと駄目よ」


 さて、とマヤは手を叩く。


「まず、体の魔力を感じられるように、練習しましょう!」


 はーい! と子ども達が返事をするが、そこに魔導通信の着信が入った。


「あ、ちょっと待ってて」


 マヤは慌てて通信に出る。


「はい、ゴルト村です」


『急ですまないが、来月の一日に本部まで来るように。交代の要員を派遣する、私物は全て持ってくると良い』


「え……」


 出し抜けに告げられ、思わず絶句するマヤ。


「異動ですか?」


『そうなるな』


「……分かりました」


 気落ちして通信を切る。


「ごめんね、みんな、魔法最後まで教えて上げられなくなっちゃった」


 えーっ! と子ども達から批難の声が上がった。


「今月末までは居るから、基礎だけはなんとか覚えてね。ビシバシいくから頑張ってついてきて」


 えーっ! と今度は子ども達から悲鳴が上がる。


「さあ、早速始めるよ!」


 マヤは腕捲りをする真似をして、子ども達に向き直った。




 翌月の一日、マヤは王都の王国行政本部で指示を受け、指定された建物へ向かっていた。


「ここかな……」


 その建物はなんの変哲もない、ただの事務所に見えた。しかし、なんの建物であるかの表示がされていない。自然な佇まいの不自然な建物だった。


「失礼します……」


 恐る恐る、扉を開けて中へ入る。建物の入り口付近で仕事をしていた男性から、声をかけられた。


「どちら様ですか?」


「マヤ・ミズキ特務魔導吏員です」


「ああ、話しは伺ってます。奥の管理監室へどうぞ」


 と、奥の部屋へ通された。

 部屋の前まで来ると、マヤは居住まいを正し扉をノックする。


「どうぞ」


「失礼します」


 返事があり、扉を開ける。

 簡素な作りの部屋に、書類作業用の机、それと簡単な応接セットが有るだけの部屋に、壮年に差し掛かった年頃の誠実そうな、それでいて眼光の鋭い男性がいた。


「マヤ・ミズキ特務魔導吏員、参りました」


 マヤは礼をしつつ、名乗る。


「ライト・アンダースンです。ここの管理監をしています」


 よろしく、と手を差し出してくるアンダースン。


「あの、ここは一体?」


 手を握り返しつつ、マヤは疑問を投げ掛ける。


「王国軍統合本部情報局、第三課です」


「えっ?」


「有り体に言えば、王国内の揉め事担当の何でも屋、とでも申しましょうか?」


「あの、なんでそんなところにあたしが?」


 にこやかに答えるアンダースンに、マヤは面食らって聞き直す。


「命令だからですよ」


 至極当然のようにアンダースンは答え、数枚の書類を取り出す。


「はい、辞令、マヤ・ミズキを王国軍情報局特務曹長に任ずる」


「ちょ、ちょっと待ってください。あたしは軍に入った覚えは無いんですけれど!」


 慌てて止めるマヤ。


「あぁ、こちらが先でしたね。マヤ・ミズキを王国軍へ召集する」


 はい、召集令状とアンダースンは渡してくる。


「へ、兵役は良心的拒否が認められていたはずですけれど……」


 戦時中ならいざ知らず、今は平時である。マヤの記憶では、王国民には奉仕活動などに従事することにより、兵役を免除される制度があったはずだった。少なくとも、いきなり召集令状をもらうような事はなかったはずである。


「残念ながら、役人には兵役拒否はありません。まあ、滅多に召集されることはないので、知らないのも無理ありませんが」


 闇雲に役人を徴兵していたら、国の行政がパンクしてしまう。

 本来はいざ何か起こったときは、役人も国を守る醜の御楯である、という決意を表している制度にすぎず、実際に徴兵されることはないはずなのだが。


「今回は、まぁ異例ということで。はいこれ、僕の手下になるという辞令です」


 情報局第三課配属を命ず、という辞令までご丁寧に揃えられていた。


「……拝命します……」


 辞令を隅々まで見渡し、ようやくマヤは諦めた声を出した。


「貴女の活躍は聞き及んでいます。此方でもその力を振るって欲しいですね」


「善処、じゃなかった、努力します」


「当面は研修ということで、まず軍人らしい振る舞いから身に付けてもらいますよ」


 明るく言うアンダースンの言葉で、マヤの新しい日々が始まった。

感想を頂けると、励みになります。

良ければご記入をお願いします。m(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ