密談
王都にある一軒の料理屋。
豪商の商談や、それなりに地位のある人間の秘密の会瀬などによく使われるため、小部屋にて会食が行われることが多い店である。
会食時の情報が外に漏れない、という点では王都で最も信頼されている店であった。
その店の1室で、エリザベート・コッフォフェルトは独り人待ち顔で待っていた。
今の彼女の格好は、いかにもやり手の若店主のような小洒落た、しかし、彼女の社会的地位からしたらあり得ない平服である。
「お連れ様がおみえです」
仲居の女性の声と共に、扉が開かれる。
現れたのは、エリザベートと年の頃は良く似た少女である。
着ている服も平服ではあるが、纏っている雰囲気に気品が感じれた。
「アドルフィーネ殿下、此度は拝謁の栄を賜り誠に……」
「堅苦しいのは抜きにしましょう、エルザ」
形式的な言上を述べかけたエルザを、片手をふって制する。
「こんななりで、そんな挨拶はかえって滑稽だわ」
自分の格好をあえて示し、自嘲気味に笑う。
「フィーネも相変わらずのようですわね」
王国第三王女アドルフィーネと、エリザベートは遠縁とはいえ親戚関係で、同年代と言うこともあって幼い頃からの付き合いがあり、非公式な席ではお互いの愛称で呼び合う間柄である。
「で、今日はなんの悪巧みかしら」
フィーネが多分に悪戯心を含んだ顔で、問いただす。
「あと一人、呼んであります。その方がお見えになりましたら、お話ししますわ」
そこへ、仲居がもう一人の来客を告げに来た。
「お待たせ致しました」
一礼して入室したのは、中年から壮年に差し掛かった位の、堅実そうな男である。
「あら、アンダースン管理監。と言うことは、この間の件かしら」
男の顔を見て、フィーネが笑みを深くする。
「王女殿下は変わらず、聡明でいらっしゃいますね」
男はにこりと表情を崩すと、二人の向かいの席へ着く。
「では、揃ったところでお話ししますわね」
全員を見渡し、エルザが口を開く。
「先日のヘッケンバーグ伯爵の捕縛ですけれども、どうにも黒幕の姿を捉えられませんわ」
そうですわね、とアンダースンの方に視線を向けた。
「ええ、うちの情報網にも引っ掛かりません」
と、アンダースンは首を振る。
「王立軍の統合本部情報局でも掴めないとはね」
フィーネが興味深気に口を開いた。
「黒幕が居ることは確実なんですけれども、未だ確証が持てておりませんね」
怪しいのはおるのですが、とアンダースンは嘆いて見せる。
「それで、ですけれども、今回の件でその連中から盛大に恨みを買ってしまった娘がおりますわ」
エルザが真剣な表情で続ける。
「例の娘ね」
フィーネが即座に察した表情をした。
「王国軍で身柄を預かってほしい、と言うことで良いかしら?」
「ええ、情報局員に手を出せばどうなるか、いくら莫迦でも分かるでしょうし」
答えるエルザに、アンダースンは思わず口を挟む。
「情報局員でも、殉職は有りますよ」
稀な例ではありますが、と続けるアンダースン。
「片田舎の派遣駐在員よりは、余程ましではなくて?」
返すエルザに、それもそうですね、とアンダースンは頷く。
「分かったわ、早速手配してあげる」
「殿下は随分乗り気のようですね?」
頷くフィーネを見て、アンダースンが疑問を挟んだ。
「忘れたの?私もあの時、命を助けられているのよ?」
フィーネは表情を真摯なものに変え、宣誓するかのように告げた。
「王家は受けた恩は忘れないわ、絶対に」
二章始めます。ご期待下さい。




