休息
気が付くと、マヤは練兵場の控え室で寝かされていた。
「気づきまして?」
そばに居たエルザが心配そうに声を掛けてくる。
「どう……なりました……」
マヤはようやくといった様子で声を出す。
「ヘッケンバーグ伯爵は国家騒乱の罪で捕縛。ご子息のハンス殿も捕縛されましたわ」
マヤは弱々しく首を振る。
「被害は……」
「避難の際に転倒して負傷した者が数名。軽度の火傷を負ったものが数名。練兵場は1年は使用不能ですわね」
でも、街に被害はありませんわ、とエルザは続けた。
「そう……ですか……」
マヤは、安堵の溜め息をつく。どっと力が抜け、また意識が遠くなった。
「貴女は頑張りましたわ。今回、被害がこれだけですんだのは、すべて貴女のおかげですわ」
エルザが優しくマヤの頭を撫でる。
実際のところ、ヘッケンバーグ伯爵に竜を操るからくりを提供した者の足取りが掴めていなかった。王国の安寧を維持するという観点から見れば、まだ、事件は終わってはいないのだ。
しかし、マヤへ今告げるべき事とは、エルザは思わなかった。
「もう少しお休みなさい。動けるようになったら、やってもらうことは沢山有りますわ」
練兵場で起動停止したアインの移動は、工廠の人間がいくら試しても駄目だった。全身に渡り魔力焼けを起こしていたのだ。マヤでなければ、もはや指一本動かせないだろう。
「ヘッケンバーグ伯爵に肩入れしていた貴族も、動きを注意しておきませんとね」
ヘッケンバーグ伯爵は、決して一人で事を起こすような人物ではない。手を組んでいた人物が何処かに居るはずだった。
「これからが、大変ですわよ」
再び眠りに落ちたマヤを優しく見守りつつ、エルザは独り呟いた。
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