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少女奮戦記~アイン・ソフ・オウル~   作者: PONぽこPON
第1章~ゴルト村編~
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謁見式強襲

「……今日、この王国があるのも、ここに集いし諸君の献身と忠誠の賜物であると、余は確信している……」


 貴賓席に設けられたテラスから、国王、ゲオルク・アインホルン13世の声が練兵場に響く。

 マヤは、国王と対面している魔導騎兵の列の最後尾で騎体を立て膝の状態にし、自身は騎体を降りて直立不動の姿勢を取っていた。

 国王の脇にも魔導騎兵が立っており、身辺を警護している。

 そして、少し離れたところにもう一騎、付けられた紋章からしてヘッケンバーグ伯爵家の騎体と思われる騎体が、警戒するかのように立っていた。

 その様子を見て、マヤの頬を汗が伝う。別に暑いわけではない。ただ、危機感と緊張感が胸に渦巻いていた。


「……任を解かれ軍を去る者、また、新たに王国に貢献した者に惜しみ無い称賛を……」


 国王の演説の最中、遠くから微かに警報の様な音が聞こえてきた。


「陛下!」


 何者かが、貴賓席に駆け込んで来る。近衛騎士団の様だ。


「飛竜警報です! すぐご避難を!」


 心の準備が出来ていたマヤは、素早く騎体の下ろした左手に飛び乗り、操作席へと乗り移る。

 周囲の魔導騎兵達も、それぞれ騎体に乗り込んでいる。流石にベテラン揃いと言ったところだろう。

 その時、突然、地面が揺れだした。立っていられないほどの揺れに、国王始め貴賓席の人物達が床に伏せる。

 マヤは、騎体を起動すると出力にものを言わせ、強引に空中に浮かび上がった。

 と、練兵場の地面が割れ、岩の塊の様な何かが姿を表す。


「まさか、地割り竜!?」


 そう、岩で出来た蜥蜴の様なその姿は、地中を住み処とし、自在に地中を行き来する地割り竜のものだった。

 地割り竜の体長は凡そ30メルテ、それが2体も居る。

 地割り竜の一体が咆哮すると、尾をグンッと振り回す。逃げ遅れた魔導騎兵が一騎、まともに食らい吹き飛ばされた。

 もう一体は辺り構わず、火球を連続して放った。

 途端に爆炎に包まれる練兵場。


『ははっ! 案外呆気なかったね!』


 ヘッケンバーグ家の騎体、ヴァルキュリエに搭乗したハンス・ヘッケンバーグは高笑いする。


『さあ、止めだ』


 地割り竜が、二体がかりで火球を放つ。

 さらに激しい炎に包まれる貴賓席。

 しかし、


「間に合って良かったですよ」


 貴賓席のみならず、観客席まで覆う巨大な障壁の術式をアインの両の掌にある魔導結晶から発動させて、マヤは安堵の溜め息を漏らす。

 襲撃直前空中に逃れたアインを、強引に竜と貴賓席の間に入れ、高い出力と各種手持ち武器類の試験、操作用に搭載された大型の魔導結晶から術式を展開したのだ。


『お前か、また、お前が邪魔をするか!』


『この逆賊めが!』


 難を逃れた近衛の魔導騎兵が二体、ハンスのヴァルキュリエに攻撃を仕掛けようとするも、地割り竜に邪魔をされ、思うように近づけない。


『はっ! まあいいさ、そのうち飛竜もやってくる。そしたらお前ら全員消し炭にしてやるよ!』


 ハンスは騎体の出力を上げて、飛竜を操る魔力を発生させる。

 空の彼方に多数の影が見えた。時折、火球や魔力光が見えることから、王国軍の迎撃が行われている様子だが、数が多い。到底、止めることは不可能そうだった。


「あんな数が来たら、王家どころかこの街まで滅びかねない! 何を考えているの!?」


 マヤが咄嗟に叫ぶ。


『僕はね、生まれながらに、最強の魔力を天から授かった天才なんだよ』


 ハンスはねばつく声色でマヤに告げた。


『その僕を、お前ごときより劣ると言ったんだよ! この国は! そんな国など、滅んでしまったって構わないじゃないか!』


「たったそれだけの事で……」


 あまりの幼稚な言い様に、マヤは絶句した。


『天才を天才と評価しない国など、どうせそのうち滅んでしまうさ!』


「……っざけるな……」


『うん?』


「ふざけるなよ! この糞野郎が!」


 思わず絶叫する。マヤにしては珍しく、完全にキレていた。当然だろう、力のない人々を守れる存在になりたい、その一念で努力してきたマヤにとって、ハンスの幼稚な物言いはとても許容出来るものではなかった。


「国を、民を大事にしないで、それでも貴族のつもりか!?」


『言葉に気を付けろよ、下郎が!』


 ヴァルキュリエから放たれた魔力弾がアインの周囲に着弾する。避けるわけにも行かないマヤは、ひたすら障壁の術式を展開し続けるしかない。


『僕を主人と認め、忠誠を誓うなら生かしておいてやろうか、とも思ったが』


 続けざまに魔力弾を放ちつつ、ハンスは嘯く。


『まあいい、お前もここで死ね』


「くっ!」


 謁見を受けていた騎体と近衛の騎体は、地割り竜を相手に苦戦していた。地割り竜の強靭な外殻は、重装備を持たない魔導騎兵には少々荷が重い。ここに居る魔導騎兵は精々、剣かランスくらいしか装備していないのだ。


「どうしよう。動きようがない……」


 苦悩するマヤへ、秘匿通信が入る。


『よく頑張りましたわマヤ。貴賓席と観客席、避難完了ですわ』


「エルザさん!? どうやって?」


『第三王女アドルフィーネ殿下の近衛隊にご協力頂きましたの。陛下を始め皆様無事ですわ』


 後は思いっきりおやりなさい、と言って通信が切られる。


「それじゃあ、アイツの性根、叩き直しにいくよ! アイン!」


 マヤは騎体を起こし、ヴァルキュリエに正対させた。


『来いよ、どちらが優秀か、ハッキリさせてやろうじゃないか』


 ハンスも騎体を向け直し、装備されている魔導砲を向ける。


「覚悟してもらうからね」


 マヤは騎体をゆっくりと身構えさせ、腰に装備されていた剣を抜き放った。

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