出撃
「魔導炉、起動確認。第2定格出力で作動中」
工員がモニターしている騎体の状況を読み上げる。
第2定格出力とは、マヤが扱った際の魔導炉の出力、通常時より高出力で安定動作している時の出力として、新たに規定されたものだ。
「操作席閉じます。離れてください」
マヤは、操作席周辺で作業していた工員達に声をかけ、操作席の扉を閉める。
一瞬真っ暗になるが、前方と側面に騎体の外の様子が投影され、操作に支障の無い明るさになった。
と、マヤの手元にある、操作用の小さな映像盤に秘匿通信の着信を示す灯りが点った。
操作用の魔導結晶の一つに指を当て、通信を開く。
「はい、こちらアイン操作室、マヤ・ミズキです」
『やっと連絡できましたわ』
通信の相手はエルザのようだ。
「あ、エルザさん、どうされました?」
『長時間の通話は傍受されやすいですわ。今から申し上げることを覚えておいてくださる?』
エルザは真剣な声音で、さらに早口で言う。
「はい?」
マヤは困惑してみせるが、それを意に介さずエルザは続ける。
『ヘッケンバーグ伯爵は、謁見式で王位の簒奪を図るようですわ』
「えぇっ!?」
『方法は恐らく、竜を呼び寄せて王族を混乱の中で抹殺する事ですわ』
「そんな……」
『今、近衛やギルドの戦力で警戒を強化していますけれど、謁見式に参加する者の中にも不届き者が居るやもしれませんわ。いざとなったら、マヤが国王陛下の御身を御守りなさいませ』
「え……」
マヤが完全に固まったのを見計らうかのように、言うだけ言ってエルザからの通信は一方的に切られた。
『おい! 嬢ちゃん! どうした!』
騎体の外で怒鳴っているマクダニエルの声で、ようやくマヤの硬直が解ける。
「何でもありません! 騎体を出します! 皆さん下がってください!」
エルザとの通信の間に、騎体の準備は出来ていた。
『いいぞ! 待避完了!』
「アイン、マヤ・ミズキ、出ます」
騎体がゆっくりと歩き出す。危なげなく、確かな足取りで一歩一歩と進んで行く。
工員達から一斉に歓声が上がった。
『嬢ちゃん! 一応だが、儀礼用の名目で剣を装備させてある。使わんに越したことはないが、いざとなったら使える魔導具だ』
後は頼んだぜ、とマクダニエルが拳を振り上げ叫ぶ。
「はい!」
マヤは、騎体の右腕を上げて、握り拳を作り親指を立てて見せた。
工廠の敷地の外まで来ると、騎体の背中に並んで装備された一際大きな一対の魔導結晶に魔力を導き、飛行の術式を展開する。
ぐっと騎体を屈ませてから、一気に地面を蹴りだし、空中へ舞い上がった。
騎体は魔力の光の尾を引きつつ、空中を飛翔する。
「大丈夫、空中の姿勢制御も問題ない」
マヤは、街の上を飛ばないようコースを調整しつつ、謁見式の会場である近衛騎士団の練兵場へ向かった。




