アイン
謁見式の当日、朝の早い時間からコッフォフェルト家の工廠は賑わっていた。
「どうにか間に合ったな!」
最終的には徹夜で突貫作業を行い、そもそもが使い古された試験用の騎体を、レストアして何とか実用可能なまでに持ってきたのだ、工廠の男達の感慨もひとしおだった。
「格好も様になったじゃねえか」
マクダニエルは騎体を見上げ、満足気に頷く。
装甲を装備し、純白に塗装された騎体がそこに有った。
ただ、一般的な魔導騎兵は、言うなれば重装騎兵を巨大したような見た目をしていることが多いのだが、この騎体はもっと軽装の、人間らしい体格をしている。
予備の装甲が十分でなかったため、全身的に装甲が少なめであることと、当面は儀礼用という名目での修繕であるためだ。
「で、後は登録しなきゃならんのだが……」
魔導騎兵を謁見式に持ち込むための、騎体登録を行う必要があった。
「おーい! 嬢ちゃん! ちょっと来てくれ!」
工廠にやって来た礼服姿のマヤを見つけて、マクダニエルは呼び掛ける。
「あ、はーい」
「こいつを登録するから、操者としてサインしてくれや。後は騎体に名前も付けてやってくれ」
書類の束を取り出すマクダニエル。マヤから見ても軽く目眩を覚えそうな厚みがあった。
「これ……今から書くんですか?」
恐る恐るマヤが尋ねる。
「書けるところは書いてある。後は騎体愛称と嬢ちゃんが書かにゃならんサインだけだ」
「ありがとうございます」
ほっとして、マヤも軽口が出る。
「他の人に書いて貰った書類って、ありがたいですね」
書類に苦しめられたマヤだからこそ、そのありがたさがよく分かる。
「サインは5箇所ある。間違えるなよ、書類作り直しになるからな」
「は、はい」
「後は騎体の愛称だか……」
「急に言われても……元からの名前は無いんですか?」
マヤはサインしつつ聞き返す。
「元は試験零型一号騎だが、用途廃止されてるからなぁ」
「うーん、じゃあ、アインで」
少し考えた後、マヤが答えた。
「安直っちゃあ安直だが、悪くねぇな」
それで行こう、と言いつつ書類に騎体愛称として書き入れるマクダニエル。
「よし出来た。おいトール! 書類を出してきてくれ!」
「はいよ!」
「今から出せば、昼の謁見式には間に合わせてくれるって話が出来てるからな! ちゃんと手渡ししろよ!」
了解!と叫びつつ、トールは書類を纏めて鞄に仕舞う。
「ちょっと、一走り行ってきやす!」
「おう! 任せた!」
トールを見送り、さて、とばかりにマクダニエルは残った全員を見渡す。
「よし、じゃあ『アイン』を起こすか!」
おう! と全員が歓声を上げた。
名前つきました




