作動試験
数日後、マヤは工廠へと道を急いでいた。組上がった魔導騎兵の作動試験を行うとのことで、急に呼び出されたのだ。
工廠へと向かう道すがら、何度かすれ違う若い男性の視線が気になった。
どうも胸元辺りを見られている。
「やっぱり、仕立てて貰えばよかったかな……」
思わず愚痴が零れる。
今日は謁見式の説明会があり、その後、式で着る服を合わせたのだが、魔導吏員の礼服で支給されるサイズではマヤの並みより若干、いや、大分大きい胸とお尻に合わなかった。
それでも、仕立てるのは勿体ないと、一番体に合ったサイズを選んだのだが、タイトな上着とスカートが災いして、胸元とお尻が随分とけしからん事になっている。
「……動きにくい」
ヒールのある靴と合わせて、非常に動きが阻害される。
がに股にならないよう歩くので精一杯、と言ったところだ。
ようやくの事で、工廠の門をくぐる。
「こんちわー」
「よう、マヤちゃ……」
近くに居た若い工員が、声を掛けたところで凍りつく。
視線ががっつり胸に行っていた。
「ちょっとトールさん、どこ見てんです?」
マヤが唇を尖らせる。今日はそこにも紅が乗っていた。
「いや、嬢ちゃん、ここには若ぇ奴も多いんだ。刺激が強すぎるのは勘弁してくれ」
マヤの格好に気がついたマクダニエルが、そっと注意をする。
「その格好は、あれか? それで謁見式に出るつもりかい?」
「ええ、その予定ですけど?」
「王子の一人でも落とすつもりかよ」
マクダニエルは思わず小声で突っ込んだ。
「そんなにいけませんか?」
マヤがしゅんとして聞き返す。
「いけねぇこたぁねぇがな。ちと、刺激的にすぎるな」
思わず視線をそらしつつ、マクダニエルは鼻を掻く。
「ま、いいか、魔導騎兵を起こすから、嬢ちゃんは操作席へ行ってくれ」
はい、と返事をして、マヤは魔導騎兵の腹部にある操作席へ向かう。
工廠の奥で立った状態で支柱に固定されている魔導騎兵は、操作席が建物の3階ほどの高さにある。
そこまで階段を登り、足場を伝って操作席に乗り込んだ。
「よっと、うわ、スカートきつ、操作しにくいなぁ」
座った時に、まくり上がってしまったスカートを直しつつ、操作席にベルトで身体を固定する。
「はい、乗り込みました」
「よーし、じゃあ、魔導炉を起動してみてくれ!」
マクダニエルの指示を受け、魔導炉を起動させる。
微かな唸りと共に、魔導炉が魔力を発生し始めた。
「魔導炉起動成功! 出力上昇中!」
外部で騎体をモニターしていた工員が、声を張り上げ報告する。
「魔導炉、定格出力に到達!」
「嬢ちゃん! 魔導炉が安定した! 魔力を操作できるか!?」
「やってみます!」
操縦桿を握り、術式を流す。
「あれ、全然手応えがない?」
「こいつは試験用だったからな! 積んでる魔力伝達管や、魔力蓄積用の魔導結晶の容量が莫迦デカイんだ!」
マクダニエルが大声でアドバイスする。
様々な機器を試験するための騎体だったお陰で、魔力関係には余裕のある機材が積まれていた。
その分、まともに動かすためには、大出力の魔導炉が必要になってしまってもいた。
「並みの魔力じゃあ、騎体に吸われちまうからな、間違っても自分の魔力だけで動かそうとするんじゃねーぞ!」
すぐに魔力切れでぶっ倒れるぞ! と警告も飛んで来る。
「魔導炉の出力上げて大丈夫ですか?」
「出力上げるっても、もう定格出力だろ?」
モニターしている工員が疑問を挟む。
「いや、あの魔導炉の定格出力ってのは俺たちが回したときの出力だ」
マクダニエルが少し楽しそうに答える。
「嬢ちゃんの話じゃあ、飛竜とやり合った時は、出力が跳ね上がったらしいからな」
覚悟を決め、声を張り上げる。
「よし、出力上げてみろ!」
マヤはその声を聞くと、騎体に術式を送り込む。
魔導炉から、魔力を引き出すように組み上げた術式だ。
「出力急上昇!」
悲鳴のような声で、工員が叫ぶ。
「並みの魔導炉3基分の出力です!」
「嬢ちゃん、制御できてるか!?」
思わずマクダニエルが叫ぶと、出力がストンと落ちた。
「大丈夫です! 思った通りに制御できます!」
マヤから会心の笑みを含んだ回答が帰ってきた。
「もうちょっと高くしても大丈夫だと思います!」
「おいおい、あの魔導炉って、隅で埃被ってたボロだったよな」
誰かが、ひそひそと囁いた。
「炉心、何が入ってんだ?」
「案外、とんでもねぇもん見つけちまったのかもな」
マクダニエルは呟くと、次の指示を出す。
「嬢ちゃん! 次は出力上げて騎体に魔力を循環させるんだ!」
「はい!」
~数時間後~
「はいよ、上出来だ、嬢ちゃん」
もろもろ試験を実施し、ようやくマクダニエルは満足を得ていた。
「思った以上に仕上がったな。後は外装を取り付けて、塗装して終了だ」
装甲も付けるんだったな、と確認する。
予備の装甲でまがりなりにも実戦に耐えれるようにしろ、と指示が出ていた。
「さて、予備の装甲なんてどれだけあったかな?」
頭の中で計算しつつ、騎体を見上げる。
何人かの工員が、操作席の前で困っているのが目に入った。
「どうしたぁ!?」
「嬢ちゃんが操作席開けてくれないんですよ!」
工員が叫び返す。
試験中に閉めた操作席を、マヤが開けていないのだ。
「多分、中でのびてるな」
なんだかんだ、魔力を相当使っている筈である。並みの人間なら、もっと早くにダウンしていただろう。
「操作席を強制解放しろ! 後、嬢ちゃんを仮眠室に連れてってやれ!」
指示を飛ばしつつ、苦笑する。
「当分、野郎共は仮眠室立ち入り禁止だ!」
試験用のガタがきた騎体ですけど、専用機になる予定です。うまく活躍させたいですね。




