コッフォフェルト工廠
「やっと着いた~」
しばらくして、王都にはマヤの姿が有った。
交代要員が来てから引き継ぎを行い、首無しの案山子を操りはるばる王都までやって来た、というわけだ。
案山子の履帯はそもそも長距離の移動には不向きで、さらに、飛竜との戦いで足廻りに負荷がかかっていたため、騎体を休ませつつ、術式で強引に操りながらの移動であった。
「なかなか、神経と魔力を使ったなぁ」
伸びをしつつ、エルザに指定された町外れにある、コッフォフェルト家の工廠へと騎体を向ける。
「おう! 来たか来たか!」
工廠の敷地に入ると、早速、工員達から出迎えを受ける。
「こりゃまた、派手にぶっ壊してくれたもんだな!」
ガッチリとした体格で髭面の、いかにもな雰囲気の初老の男が声をかけてきた。
「すみません! 折角の騎体なのに!」
マヤは負けじと声を張り上げ、敷地の隅に騎体を止める。
「おう、嬢ちゃんかい? こいつで飛竜とやり合ったって大莫迦野郎は?」
野郎じゃねーな、と言って豪快に笑う男。
「あたしですけど、この子が居なかったら死んでましたし……」
マヤも騎体を降りつつ、笑いかける。
「良いって、気にするな。嬢ちゃんとお嬢様の命を守れたんだ。こいつは立派に役に立ったさ」
笑いながら、男は手を差し出した。
「マクダニエルだ、工廠長をやってる」
「マヤ・ミズキです。特務魔導吏員を拝命しています」
マヤも手を握り返す。
「ほう、特務たぁ優秀じゃねぇか」
「運が良かったんですよ」
「謙遜するこたぁねぇよ」
やはり、豪快に笑うマクダニエル。
「工廠長ー! こりゃ駄目だわ!」
と、そこへ、やはり大声が掛けられる。何人かの若い工員が案山子の履帯廻りを見ていた。
「ここまで酷い魔力焼け、見たこと無いぜ」
「どうしたい?」
マクダニエルが若い連中に尋ねる。
「魔力伝達管が魔力焼けしちまってるんですわ。こりゃ、他の人間じゃ動かせねぇ」
「魔力焼けですか?」
マヤも興味深げに首を突っ込む。
「魔力焼けってのはだなぁ……」
マクダニエルの話によると、魔力には行使した個人特有の波長があり、騎体各部に魔力を送る魔力伝達管が大量の魔力を流した時に、その波長に晒されることでそれ以外の波長の魔力が流れにくくなるように、魔力伝達管が変形してしまう、と言うことのようだ。
「ここまで酷く焼けるってことは、相当使い込んだか、ドカンと強力な魔力を流したか、なんだが」
チラリ、とマヤを見てマクダニエルは呟く。
「嬢ちゃん。あんた何やった?」
「魔力を叩き込んだのは、自覚があります」
「普通、一回や二回じゃあこうはならねーぞ」
マヤは諦めて簡単に経緯を説明する。
「はぁ!? 火吹き竜の火球を食らって障壁で止めたぁ!? のし掛かって組伏せたぁ!?」
そりゃ壊れるわ、とマクダニエルは天を仰ぐ。
「あんた、良く生きてたな……」
「あたしもそう思います……」
「謙遜するこたぁねぇよ……」
さて、とマクダニエルは気合いを入れ直す。
「嬢ちゃん、こいつを工廠の中まで入れてくれや。こいつは嬢ちゃんの言うことしか聞かねぇからな」
「分かりました」
「野郎共、仕事にかかるぞ! 今日中には魔導炉を下ろして、騎兵のほうに試験接続するからな!」
マクダニエルの咆哮の様な指示に、工員達は一斉に動き出した。




