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少女奮戦記~アイン・ソフ・オウル~   作者: PONぽこPON
第1章~ゴルト村編~
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謁見へ

『たいへん申し訳ない!』


 マヤが魔導通信に出たとたん、出し抜けに謝られた。


「えっと……話が見えないんですけど……」


『私が君の話を真剣に聞いていれば、こんなことにはならなかった。本当に申し訳ない!』


 本部の役人は、通信機越しでも分かるほど恐縮していた。いや、己の不明を恥じていた、と言うべきか。


『君が無事で本当に良かったと思っている』


「まあ、済んだことですし……」


 根には持ちますけど、との言葉を飲み込みながらマヤは納めようとする。


『暴れ竜と火吹き竜を討伐した君の功績は大きいものだ。次の謁見式で、国王陛下直々に御言葉をいただけることとなった』


 役人は言葉を続ける。


『交代要員を送るので、王都まで来て欲しい』


 もちろん公務扱いとする、と役人は真摯な声で語った。


「謁見ですか!? あたしが!?」


 思ってもみない事態に、マヤは思わず声が大きくなる。


『準備もある。交代要員が到着次第、引き継ぎをして王都まで来て欲しい』


「分かりました……」


 以前の慇懃無礼な態度からは考えられない役人の言葉に、少し可笑しさを覚えながらもマヤは承諾した。


「国王陛下に謁見かぁ~」


 通信を切って、マヤは天井を見上げた。

 思ってもみない出来事に、しばらく呆けてしまう。


「あらあら、もっと喜んだらいかが?」


 部屋の奥で、何やら自分の魔導通信機を操作していたエリザベートが声を掛けてくる。


「せっかくの機会ですのよ?」


「エリザベートさんはお声掛からないんですか?」


「わたくしは、今はギルドの所属ですから、そちらからお褒めの言葉をいただきましたわ」


 えっへんと胸を張るエリザベート。


「それから、前にも申し上げましたけれど、わたくしの事はエルザと呼んでいただきたいですわ」


 二度も死線を潜り抜けた仲ですから、とエルザは笑う。


「なんか、気恥ずかしくて」


 すみません、とマヤは頭を下げた。

 そんなマヤに微笑みで答えるエルザ。あらためて口を開き、話題を変える。


「興味深い事が分かりましたわ」


 エルザは魔導通信の書類転送で送られてきた紙をヒラヒラと振ってみせる。


「なにがです?」


「どうやら、ヘッケンバーグ伯爵ご自身が、何者かに飛竜の生態などを研究させているようですわ。それも、魔導理論と関連付けながら」


 エルザは浮かべていた笑みを消し、表情を引き締めた。


「それと、今度の謁見式、開催委員長はヘッケンバーグ伯爵ですわ」


「さすがに、それだけで疑うのはどうかと思いますけど?」


「さあ? どうかしら。ヘッケンバーグ伯爵は以前から権力欲が強くていらしてね」


 さすがに辟易させられますわ、とエルザは溜め息をつく。


「王都まで行ってる間に、また竜が来たりしたら困りますね」


「それも困りますけれど、もっと問題がありますのよ」


 うむむ、と唸るマヤにエルザは謎掛けの様に言葉を続ける。


「もし、仮に竜を纏まった数、呼び寄せるなり、操るなりできるとするなら……」


 マヤがハッとして、表情を強ばらせた。


「謁見式では、国王陛下と王家の方、それと血縁のある公爵家の当主が揃いますわ」


「王都の防衛機能を越える程の竜が集まったら……」


 大変なことになりますね、とマヤも呟く。


「今回の謁見式は大規模なものですわ。会場は王都外にある近衛騎士団の練兵場で行われますの」


「王城じゃあないんですか!?」


「謁見を受けるのは、王国軍や騎士団の魔導騎兵操者から退役する方が主ですわ」


 魔導騎兵が整列できる場所が必要ですの、とエルザは溜め息をつく。

 魔導騎兵は現在、戦場で一騎当千の戦力として扱われている機械と魔術の結晶たる魔導騎で、人の10倍ほどの大きさの機械の巨人である。

 当然、対竜戦力としても、最も有力視されている。


「それなら、かえって安心なんじゃあないです?」


「国王陛下の御前で、武装できる筈ありませんでしょ。出陣式とは違いますわ」


 最悪、有力な魔導騎兵共々、国の中枢を失いかねない。

 エルザが気を揉んでいたのは、その事実に思い当たったからであった。


「こっそり武装しておくとかは?」


「剣やランスを儀礼用と称して持ち込むのがやっと、ですわね」


 それでも、無いよりはましですけれど、とエルザは答える。


「わたくしの実家から各所に注意をしてもらうとして、どれほど信じてもらえますかしら?」


 エルザは小首を傾げる。


「エルザさんのご実家って、公爵様でしたっけ?」


 マヤが思い出したように、恐る恐る尋ねる。


「ええ、そうですわ。わたくしも、末席ながら王家に所縁がありましてよ」


「重ね重ね、ご無礼致しました!」


 軽く答えるエルザに、マヤは土下座せんばかりの勢いである。


「構いませんわ、というか、マヤとは戦友なのですから、今さら畏まらないでくださいます?」


「そうは言われますけど」


 どう対応して良いか分からなくなるマヤである。


「そうそう、いい話もありますわ」


 エルザが口調を変え、悪戯っぽく話す。


「マヤ、貴女、謁見式どうするおつもり?」


「え、それは、公務扱いですから出ないわけには……」


「そうではなく、今度の謁見式は魔導騎兵操者のものですのよ? 貴女あの首無し案山子で出るおつもり?」


「あ……生身じゃ、まずいですか?」


 エルザはにこりと微笑むと、問いかけるマヤの肩を軽く叩く。


「生身だと、最前列に並ぶことになりますわよ。国王陛下の目の前に」


 年嵩の魔導騎兵操者を差し置いて、とエルザは告げる。


「うわぁ……」


 マヤはその風景を想像して呻く。恐らく、周囲から突き刺さる視線は酷く冷たいものになるだろう。


「最後尾でいいんですけど……」


「そう言うと思って、張り子の虎ですけれども、一騎用意しましたわ」


「えぇっ!! いいんですか!?」


 驚くマヤにエルザは事も無げに答える。


「国の兵器廠で使っていた試験用の騎体を、払い下げてもらいましたの。ただ、魔導炉が無いので、案山子に積んであるのを移植させたいと、家の工廠から頼まれましたわ」


 王都まで案山子を持っていってくださる?とエルザはマヤに告げた。

ちょっと会話シーンが続きます

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