暗躍
「そうか、飛竜を呼び寄せることが出来たか」
老齢の男が満足そうに声を出す。
たゆたう紫煙がふわりと揺れた。
「これで、計画を実行に移せるな」
男はゆったりと椅子に掛け直す。
「しかし、実行に移すとなると、多量の魔素が必要です。それを集めるための魔力が相当量必要になります」
部屋の隅で控えていた、精悍な体つきをした中年の男が囁くように告げる。
「魔力源として魔導炉が必要です」
「我が家の魔導騎兵に積めば良い」
老齢の男は面倒臭そうに答えた。
「そうすれば今後、この国を統べるのは誰か、嫌でも知らしめることが出来よう」
「それの操者は僕にやらせてよ、父さん」
若い声が割って入ってきた。
「ハンス、どういうつもりだ?」
老齢の男は咎めるでもなく、父と呼び掛けてきた若い男に聞く。
「知らしめてやるのさ、この国で大魔導師と呼ぶに相応しいのは誰か、ということを」
ハンスと呼ばれた男は、端正な顔を軽薄そうに歪めながら吐き捨てた。言葉に怒気が宿っている。
「天から魔法の才能を授かったこの僕を! どこの馬の骨とも知れない者以下と見なしたこの国にね!」
「好きにせよ、ただし、事が成った暁には、お前は王位継承権第2位となるのだ」
その事は忘れるな、と老齢の男は続ける。
「分かってるよ、父さん」
約束だよ、と言いつつハンスは父に背を向けた。
そのまま、中年の男の前を横切り、扉へ向かう。
「ギルフォーデス君だっけ? 君の事、僕は父ほど信頼してないから、余計なことはしない方がいいよ」
男にだけ聞こえる小声で、ハンスは囁く。
ギルフォーデスと呼ばれた男は、微かに肩をすくめた。口元だけが笑みの形を取る。
「そういえば、暴れ竜を倒した魔導師、例の小娘だそうですな」
「あぁ、確かに報告ではそうなっていたな」
老齢の男はまるで信じていないのか、あからさまに不審な様子だ。
「おまけに飛竜まで倒しただと? 人まで使って欺瞞情報を掴まされるとはな!」
憤懣やる方無しといった有り様である。
「ちょうどいいや、父さん、そいつを今度の謁見式に呼び出してよ」
ハンスは、妙案を思い付いたように振り返る。
「暴れ竜と火吹き竜を倒した英雄ってことだろ、国王の前に出るのにちょうどいい箔じゃないか」
整った顔立ちに嘲笑が浮かぶ。
「そこで、国王もろとも……」
「ハンス! 言葉が過ぎるぞ」
老齢の男が強い口調で窘める。
「だが、悪くない。誰だか知らんが、こちらを舐めてくれた報いとしてはな」
しかし、口調を満足気なものにあらためた。
ゆっくりと葉巻を燻らす。
「そうだな、そうしようじゃないか、英雄殿には悲劇的な最期がよく似合う」
男は手配を行うために右筆を呼び、二人には下がれと手を振った。
悪役の会話は書いてて楽しいですね




