後始末は?
「なんとかなるものですわね……」
雪面に倒れた飛竜の死骸を見下ろして、エリザベートは呆然と呟く。
「案山子で、若竜とは言え飛竜を倒したのなど、そうそう有ることではなくてよ?」
飛竜ともなれば、大体相手をするのはもっと上等な魔導騎を当てるのが一般的だ。
もっとも、飛竜自体が人が住んでいる地域まで出てくることは稀なことではある。
暴れ竜対策用の案山子で倒せたことは、僥倖であろう。
「よく火球を魔法で止められましたわね」
死んだかと思いましたわ、とエリザベートはマヤの健闘を讃える。
「魔導炉の魔力を借りました」
こちらも未だ虚脱状態のマヤが、ようやくといった様子で答えた。
「というか、この子の魔導炉何なんです? 術式で魔力引っ張り出したら、凄い出力があったんですけど?」
「わたくしも、工廠の隅で埃被って忘れられてた物、としか聞いてませんわ」
魔導炉は魔導具、特にかつて一部の天才達によって作られた強力なそれを中枢に組み込み、魔素を引き寄せ魔力へと高速で変換させる物だ。
一般的な魔導炉は、中枢の魔導具は現代でも作られている物を利用しており、出力もそれなりではあるが、戦艦に積むような大出力の物となると、前述のとおり中枢には伝説級の魔導具が使用されている事が多い。
「それとやっぱり、この辺りの魔素が濃いですね」
「魔素につられて、飛竜が寄ってきたとかあり得ますかしら?」
エリザベートが小首を傾げる。
そうとでも考えなければ、飛竜がこんなに人の居住地の近くまで寄ってくることは滅多にない筈であった。
「さぁ? そこまでは分かりかねます」
いかにマヤが魔法に卓越しているとはいえ、飛竜の習性などは専門外である。
「さて、2体とも引っ張って帰りますか?」
「暴れ竜は食い散らかされてて、無理そうですわ」
「ここに置いておくと、また、いらない物を呼び込まないですかね?」
一理ありますわね、とエリザベートが考え込む。
「村に戻って、荷馬車と人手をお借りしましょう。この案山子で荷馬車を引けば、馬は要りませんわ」
「臭いが付いちゃうので、肥用の荷馬車ですね」
何気なく言うマヤの言葉に、エリザベートは渋い顔をする。
「肥といいますと、あれ、ですわよね」
「糞尿ですね」
あちゃーと天を仰ぐエリザベート。
「後は、この子が何時まで頑張れるか、ですね」
マヤはエリザベートの反応を意図的に無視しつつ、騎体の外板をペシペシと叩いた。
「途中から、ほぼ魔力と術式だけで動かしてましたから、機械的な方はどっかイカれてるかも」
「魔力と術式だけで、ですの!?」
エリザベートが驚いて尋ねる。
「そんなことができるのは、ギルドの魔導騎兵操者でもそうは居ませんのよ?」
国の近衛騎士団でも何人居るか、とエリザベートは考え込んだ。
「そう難しいことではないですよ、ちょっとした魔導理論の応用です」
マヤはそんなエリザベートに、自分の師の受け売りで答える。
「魔力さえ繋がってれば、操り人形よりよほど簡単ですよ」
「いや、普通は出来ませんわ…」
エリザベートは、あらためてマヤの魔法への知識の深さと理論の確かさを実感した。
それと同時に、自分の計画している一つの案を実行する決意を固めたのだった。
これから更新ペースが少し落ちます。
書き続けますので、よろしくお願いします




