魔導騎
数日後、ようやく報告書を仕上げた二人に、大荷物が届けられた。
「これは……」
マヤがそれを「見上げ」言葉を失う。
それは、巨大な魔導機械だった。
履帯で移動する台車の上に、板金で作られた暴れ竜の上半身を模した張りぼてが乗っている。
暴れ竜の背中に当たる場所に人が乗れる操作席が設けてあった。
「案山子じゃないですか……」
暴れ竜などを、人の住む町や村に近付けさせないために作られた案山子と呼ばれる乗り物。
暴れ竜を模した外見で、人に害を及ぼす巨竜などを威圧する物だ。
「一応、魔導炉を積んでますわ。魔導騎と言うことになりますわね」
魔導炉とは、魔導結晶や魔導具などを炉心として、周囲の魔素を汲み上げ魔力へ変換する、要するに、魔導結晶の出力が極端に大きいもの、と思えば良い。
魔素の変換効率も良く、大出力の魔力を得られる。
魔導騎とは、魔導炉を動力源に組み込んだ乗り物を指す。
1人乗りの車両から、20メルテはある巨人や数百メルテの戦艦など、出力に応じて様々な 形状が存在する。
「これが手に入るなら、あんな死にそうな思いをすることも無かったのに……」
思わず愚痴が溢れるマヤ。
「ギルドの伝手ではありませんことよ。これは、わたくしが手配したものですわ」
エリザベートが彼女の隣で笑う。
「まさかこんなに早く手に入るとは思いませんでしたわ。中古の動力無しのを、家の工廠の隅に転がってた魔導炉無理やり乗せて再生したものですから」
何時になるか分からなかったからですわ、とエリザベートは少しバツが悪そうにした。
「これで、又、暴れ竜が出ても何とかできますでしょ」
「確かに、村は守れますけれど」
でも、とマヤは続ける。
「これ、経費とかはどうするんです?」
「わたくしからマヤの敢闘を讃え、贈らせていただきますわ」
しれっととんでもない事をエリザベートはのたまった。
「ありがたいお話ですけど……」
とんでもなく高い借りになってしまうよなぁ、と内心マヤは頭を抱える。
「操者は誰がやるんです?」
「操者までは手配できませんでしたの」
エリザベートはにこやかにマヤを見つめた。
「もしかして、あたし、ですか?」
「魔導理論の応用で操作できますわ」
にこやかな表情を続けるエリザベートに、マヤはガックリと肩を落とす。
「そんなことだろーとは思いました」
「早速、動かしませんこと? 山の上の暴れ竜の死骸も、何時までもほかっておけませんでしょ?」
「確かにこれがあれば、引きずって来られますけれど」
なんか納得がいきません、と言いつつも、マヤは外側に取り付けられた梯子を使い、操作席に乗り込む。
後からエリザベートも着いてきた。
操作席は露天のため意外と広く、人が3人くらいなら入れそうだった。
「うわ、魔導砲まで有る」
「20メル対巨竜魔導砲ですわ」
その背中には、魔導銃の3倍は有りそうな魔導砲が、銃座に取り付けられ収まっていた。
「では、やってみますか」
操作席に着いたマヤは、騎体の小物入れに入っていた操作手引き書を引っ張り出し、パラパラ捲りながら呟く。
「基本操作は操縦桿で、細かい制御を魔法術式で行うんですね」
「そうですわ」
マヤの後ろで、魔導砲を展開させつつエリザベートは答える。
「魔導炉を起こします」
操縦桿を握り、そこにつけられた小型の魔導結晶に指を当て、術式を送り込む。
微かな唸りと共に、魔導炉が起動した。
「やった。動いた」
「マヤなら当然ですわ」
「前へ出ます」
マヤが慎重に操縦桿を倒す。
ゆっくりと騎体が前に進み始めた。
「微速前進」
前方に村長宅が見えてきた、このまま直進すると…
「曲がらないと、ぶつけますわよ」
「えぇと、曲がるは…こうだっけ?」
よいしょとばかりに操縦桿を倒すマヤ。その指示に従って騎体は急旋回を行った。
「きゃぁぁぁ!」
急激な加速度に振り回される二人。
「そ、操作は優しく、が基本ですわよ」
「わ、分かりました、身をもって理解しました」
その日から、マヤの魔導騎操作の特訓が始まった。
履帯は一般的にはキャタピラですが、商標名なので日本語にしています。
あと、単位は
メルテ=メートル
メルチ=センチ
メル=ミリ
クロ=キロ
クラン=グラム
リパル=リットル
となっています。
世界観的には体の大きさ基準の尺貫法やヤードポンド法のほうが相応しいんですが、分かりやすさを優先しました。




