策動
「暴れ竜が討伐された、だと?」
敢えて照明を落とした薄暗がりの中、身なりの良い老齢の男が声を上げる。
部屋には葉巻の紫煙がたゆたい、雰囲気をさらに暗いものへとしている。
「はい、ギルド討伐隊が到着してわずか数日で、倒された様子」
相対した、引き締まった肉体を持つ中年の男が答えた。
「馬鹿な、ギルドには狩り蜥蜴と伝えておいた筈だ。数日で対処出来よう筈が無い」
老齢の男が狼狽えたように呟く。
「どうも、どういう伝手を使ったのか分かりませんが、強力な魔導師が協力したようで、現場には強い魔力痕が有ったとの報告です」
中年の男は姿勢を正したまま、答える。
「また魔導師か、舐めた真似をしてくれた小娘も目障りだが……どこのどいつだ」
「現時点では分かりません」
「早急に調べろ、人を使って構わん」
「は!」
老齢の男は、吸っていた葉巻を乱暴に火皿へ押し付ける。
「最近の暴れ竜は小娘一人、始末できんのか?」
男の無茶苦茶な言い様に、中年の男は微かに肩をすくめた。
「折角の研究成果とやらも、大した事は無いようだな!」
忌々しげに老齢の男は吐き捨てる。
「成功すれば、この国の王族どもを排除して、とって変わってやるものを……」
「お言葉が過ぎます」
誰が聞いているともしれません、と中年の男は囁くように諫言する。
「まあいい、暴れ竜で駄目なら次を考えるまでだ」
行け、と手で中年の男に指示し、椅子に深く掛け直す老齢の男。
「我が子を愚弄した罪だ、この実験に命でもって付き合ってもらおう」
証拠は有りはしないからな、と男は不敵に笑った。
今回ちょっと短めです。




