田村のおばあちゃん
「すいません。田村のおばあちゃんに届けていただけませんか。」
綺麗になったなと庭を眺めていると、今日も青白いマリーさんが紙袋を持ってやってきた。
「この間、お野菜を沢山いただいたので、そのお礼をお渡ししたいのです。」
紙袋の中には個包装されたマフィンが沢山入っていた。
「わかりました。行って来ます。」
「ありがとうございます。」
田村のおばあちゃんと言うのは、隣に住む一人暮らしのおばあさんで、ただ隣と言っても100m以上離れている。時々とれた野菜をシルバーカーに乗せてやって来ては、庭で草むしりをしている私にも声をかけてくれる人だ。そう、田村のおばあちゃんは私が見える人。
・・・たぶん人。
出雲大社ではあんなに無視されたのに、不思議とこの周辺では見える人が多かった。しかも、見えない人でも見える人と一緒にいると、私に気づくことがある。そして見えていれば触れることも出来た。マリーさんに聞くと。
『そういうものです。』
そういうものらしい。
「こんにちは。」
鍵のかかっていない玄関を開けて声をかけた。
返事はない。ただ、玄関にシルバーカーがある。玄関を出て家の裏にまわってみると・・・。
「こんにちは。」
田村のおばあちゃんは裏庭の小さな畑の中にいた。老人にしては大きな体を鍬で支えて立っている。
私の声が聞こえなかったみたいで、振り向いてはくれなかった。
「・・て・・き・・・。」
近づいていくと、田村のおばあちゃんが何かしゃべっている。
独り言?
「こげなことだけん、さいくにならんわ。」
田村のおばあちゃんが言って笑っている。
なまりがすごくて言ってることがわからないけど、ずいぶん大きな独り言だ。
「こんにちは。」
もう一度声をかけると、今度は振り返ってくれた。
「明ちゃん。」
言うと私とは反対の方を向いて
「タダさん、さっきゆうちょったマリちゃんのとこの明ちゃんだわね。」
田村のおばあちゃんが私を誰かに紹介している。誰かいるらしい。それから私を見て言った。
「明ちゃんはえーにょうばやゆうちょったとこ。」
褒められてる?
「あげだが、タダさん。」
田村のおばあさんが嬉しそうに言った。
私は「どうも」っとタダさんがいるらしい方へ頭を下げた。
「コレ、マリさんからお野菜のお礼だそうです。よかったらふ・・・。」
2人でお茶にと言おうと思ったけど、もっといるかもしれないのでその言葉を飲み込んだ。
「あだん!こげなことせんでえーのに。」
と言いながら田村のおばあちゃんは嬉しそうだ。
「タダさん、明ちゃん、よーけあーけんお茶にしよこい。」
見えない相手とお茶を飲むのは、なかなかスリリングなので、丁重にお断りをする。
「すいません、私はやることあるので。」
ごめんなさい、本当はありません。
「そげかね。」と田村のおばあちゃんはとても残念そうに言ってくれた。
それから、空を見上げて
「またお茶にくーだわ。あっこから、いつお迎えがくーかわからんけんね。」
私は曖昧に笑っておいた。正直こう言う冗談は対応に困る。
帰り道、あの冗談はさて置き、私のことを見えない人もいれば、私にも見えない人がいるんだなと妙に納得した。
帰ってマリーさんに話すと
「ふふふ、田村のおばあちゃんはボケたフリをして人を驚かすのが好きなのです。」
フリだった。




