表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

マリーさん

「こんにちは。マリです。マリーと呼んで下さい。」


マリーさんは、色白を通り越して青白い儚げな人だった。

急にやってきた私に「それは大変でしたね。」と、すぐに受け入れてくれた。


「こちらのお部屋をお使いください。」

「すいません。ありがとうございます。」

「いいえ、よくある事ですから。」


マリーさんは青白い顔でにっこり笑って言った。

やっぱりよくあるらしい。



元牛小屋だったと言う離れの部屋は、広くて快適だった。2段ベットにテーブルやソファ、家具が全てそろっている。今は3人暮らしの様子だけど、最近まで誰か住んでいたのかもしれない。



夕食も終えて部屋に1人になると、暇つぶしにと貸してもらった本を開く。しばらく目で文字を追っていたけど結局集中できないので本を閉じた。



夕食での事を思い出す。

用意された夕食を私は食べることが出来なかった。何も食べてないのにお腹は空いていないし、夕飯を美味しそうとも思わなかった。

『そういうこともある。』シゲさんの声が優しかった。

よくわからないが鬼と言うのはそういう事があるらしい。そう言えばその後マリーさんが、『必要ないと思いますが』と言ってトイレとお風呂を案内してくれた。


「・・・。」


必要ない事もあるらしい。まぁ、確かに尿意はない。

なんかイロイロあった1日だった気がする。少し疲れているかもしれない。


「寝よう。」



*****


翌朝、起きるとシゲさんとハルカはすでに出かけていた。

自分でも驚くほどよく寝た。


「よく眠れましたか?」


母屋に顔を出すと、マリーさんはそう言って水を差しだしてくれた。今日も青白い。


「はい、良く眠れました。何か手伝うことないですか。」

「何もしないのも、しんみりしますものね。」


しんみり・・・少し考える。食欲もないし尿意もないけど、しんみり出来るほどの衝撃や違和感もないのだけど。


「そうだ。私、日差しが不得意なので、昼間はあまり外に出ないのです。適当で構いませんから庭を綺麗にしてもらえると助かります。」

庭に目を向けてみると、確かに草は生え放題、木は茂り放題だった。

「触らない方がいい植物はありますか?」

うるしがありますが、あなたはたぶん問題ないと思います。あなたの部屋の隣が物置ですから、そこにある道具を適当に使って下さい。」


この家の庭は広い。車が4台ぐらい止められそうな空間、いつも車が止まっている場所と人が歩く場所以外は概ね雑草に支配されている。さらにその空間を取り囲む庭木ゾーンがまた広い。とりあえず、特にこだわりがないようなので、花を咲かせそうな山茶花さざんか金木犀きんもくせい以外の邪魔そうな枝を切って行くことにした。来年花が咲かなくても許してほしい。


やり始めると夢中になるもので、気が付くと結構な枝葉が地面を埋めていた。正しいかどうかはさておき、かなりスッキリしたと思う。


枝葉をどこにまとめようか考えていると、庭の隅に大きなポリバケツが3つ並んでいるのが見えた。


ゴミ箱かなと思って、なんとなしにポリバケツの蓋を開けてみた。



「・・・。」



私は蓋をしめた。止めていた息を吐く。見なかったことにしようと思ったら、窓際に立つマリーさんと目が合った。微笑んでいる。

「ごめんなさいね、今晩には捨ててきますから。ふふ、もう大丈夫ですから安心して下さいね。」

「はい。」

ここは笑うとこと判断、私は笑顔で返事をしておいた。安心もなにも、すっかり忘れていた。なんか、ごめんなさい。私はそっと手を合わせておいた。



切った枝葉を庭の一画にまとめ終わるころ。

「お茶でもいかがですか。」

マリーさんに言われて、喉が渇いていることに気が付いた。お腹は空かないけど喉は乾くらしい。

居間にあがると、マリーさんが丁寧にジャスミン茶を入れてくれた。お茶を入れる仕草って綺麗なものだなと、感心しながらマリーさんの手元を眺める。

「マリーさんって泳ぐの早そうですね。」

思っていることが口から出た。

「えぇ、もともと海で暮らしていましたから。」

「そうなんですね。」

「はい、どうぞ。」

差し出された湯呑を持つマリーさんの手は、水かきがとても発達している。よく泳いでいるとこういう手になるのかと納得した。

良く働いたせいか、マリーさんの入れ方が上手なのか、ジャスミン茶がとても美味しい。

「すごく美味しいです。」

嬉しそうにマリーさんが笑う。

「ふふふ、ありがとうございます。やっぱり、昼間に誰かいるのって嬉しいわ。」

「ありがとうございます。」

私まで嬉しくなる。

マリーさんの少し不思議な空気感がとても居心地がいい。



*****



何日か過ぎた。

朝はハルカとシゲさんが出かけてから目を覚まし、昼間は庭の手入れや本を読んだり、マリーさんとお茶をして過ごした。夕方になるとハルカと誰かしらが一緒に部屋にやって来て、鬼について教えたがったけど、正直何を言っているのかよくわからない。



例えば

「四国の山の中に虎になった鬼がいらしいよ。」マサルが噂を持ってきた。

虎になる?

「ずっと人間が驚いてくれるのを待ってるって。」

「人に見えないのに?」

ヨウ、虎になるはスルーですか。

「見える人間が来るのを待ってるんだね。」

ヒロキには気持ちがわかるらしい、頷いている。

「じゃぁ、私達が行って驚かなかったらショックだろうね。」

ハルカが悪いことを考えている。



終始こんな感じで、いろんな話をしてくれる。

意味がわからないものの、とりあえず、若くて、元気で、かわいい。



この日も、マリーさんとお茶をしている。レモングラスのハーブティーはとてもいい香りがした。

「マリーさんは、いつも敬語ですね。」

思っていることが口から出た。

シゲさんやハルカにも敬語なのが少し気になっていたのだと思う。

「そうですね。長く生きると謙虚さを忘れてしまいそうになるので、敬語で話すようにしています。ふふふ、変ですか?」

「いえ、マリーさんの雰囲気にはよくあっていると思います。」

「ありがとうございます。」

「何歳なんですか?」

「100を少し超えたところです。」

「・・・若く見えますね。」

「ふふふ。」

つっこむ所だったろうか?

でも本当かもしれない。

「今日のお茶も美味しいです。」

「良かったわ。」



ここで過ごす時間は楽しい。

時々、いつまで居ていいのかな?と考えることもあったけど、これといって先が不安になることはなかった。まぁ、なんとかなる。人間の時らか、ずっとそういう風にやって来たから、今さら不安がるのは難しい。


そんなこんなで「おっちゃんが帰って来た。」と言ってヒロユキがやって来たころには、すっかり今の生活に慣れていた。


2階のハルカの部屋に呼ばれて行ってみると、初めて見るハルカの部屋には謎の粘土細工が並んでいた。牛の頭からねじれた人間の手が生えていたり、人の耳から木が生えていたり、上手なだけにグロテスク。

「上手だね。」

私が言うと、性格の悪さを感じさせない子供らしい笑顔を見せてくれた。

「頭おかしいと思ったでしょう。」

「大丈夫そこまでは、思ってない。」

「おっちゃん、帰って来た。」

私達のやり取りを無視したヒロユキが言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ