賑やかなドライブ
賑やかなドライブだった。
4人は幼馴染で、中学校の同級生らしい。
ワンボックスの三列目に最初に声をかけてくれたヒロキと長身の美少女ヨウが座り、助手席にひょろりと背の高いマサル、二列目に小柄なハルカと私が乗っている。運転しているのはハルカのお父さんらしい。子供達がシゲちゃんと呼んでいる。
なぜ、私がこの車に乗っているのか。
その理由は私にもよくわからない。
『シゲちゃん、迷子拾った。』
ヨウが私の腕をつかんだまま片手を上げてにこやかに言うと、
『何でもかんでも拾ってくんじゃねぇ。ほらさっさと乗れ。』
はーい、子供達のいい返事。
『あんたも、早く乗れ。』
はぁ、と言う私の返事。
そして今にいたる。
そして誰も私について触れてこない。
「これ、うまーい。」
「僕はあんまり好きじゃない。」
「ヒロは、チーズ嫌いなのに何で買った?」
「私のおすすめ。」
「ハルは本当に性格悪いな。俺のと交換してやるよ。これ渡して。」
はい、と私はマサルから受け取ったクレープをヒロキに渡してあげる。そして反対にヒロキのクレープをマサルに渡した。
それからハルカの性格が悪いと言う話で大盛り上がりだ。人は見かけによらない。
運転席を見ればシゲさんは笑っている。お父さん的に問題はないようだ。
「それで、あんたは何処から来たんだ?」
車が市街地を抜けて、細い土手の道を走りだしたころ、ようやくシゲさんからその質問があった。待ってました。
「助けて下さってありがとうございました。私は広尾明って言います。神奈川在住なんですが気づいたら、出雲大社にいたんです。」
私がありのままを話すと、4人の子供達がうんうんと深く頷いた。
「そういう事もあるよね。」
あるのか?
「迷子だとは思わんかったよな。堂々と列の順番無視していくから。」マサルが笑って言った。
やっぱり、気づかれていた。
「ハルカがガン見するから焦ったけどね。」
「だってあれだけ堂々と横入りされたら見るでしょ。」
「ハルは危機感が足りない。」ヒロキが真顔で言って、皆が頷いた。
「常々、鬼には関わるなってあれだけ言ってあるのに。」シゲさんが溜息をこぼした。
「鬼ってさっきのトカゲ男の事ですか?」
私が聞くと、みんなが一瞬黙った。
ん~と5人の声が重なる。
「お姉さん、いま自分がどんな状況かわかる?」マサルに聞かれ、
「いえ、まったく。」と私は即答した。
ですよねーとヨウとマサルの声が重なった。
「私は死んだわけではないんですか?」
「お姉さんは自分が死んだと思ってたの?」
マサルが聞いて来たので、私は素直に頷いた。
「だって、誰も私の事見えないから。」
「いつからあそこにいたの?」ハルカが聞いて来た。
「今朝から。」
「はやっ!」4人の声が重なった。
「受け入れ早すぎない。」ヨウが言った。
「普通、もうちょっと悩むでしょ。」ヒロキが言った。
「うん、そこに行きつくまで少なくとも3日は悩む。」マサルが言った。
「じゃー普通じゃないんでしょ。」
ハルカの性格は確かに悪い。
「まぁ、普通の人には見えないという事は」とシゲさんが口を開く。
怖い顔の割に優しい声だ。
「人として生きられなくなったわけだから、死んだと言えないこともない。でも俺たちは死んだとはとらえてないな。」
なるほどと私は頷いて見せた。
やっぱり広尾明はもうこの世にいないのと同じなのだ。正直、まったく意味が分かっていないけど、そういう事なのだろうと思った。
それなら、
「皆さんは何で私の事が見えるんですか?」
「なんで・・・。なんかすごく難しい、その質問。」ヨウが言った。
「たしかに。」マサルも頷く。
「鬼が見える人もいるし、人に見える鬼もいる。」ヒロキは簡潔に言って見せた。
「それだ。」ヨウとマサルの声が重なる。
「鬼の説明してないけどね。」
ハルカのつっこみは的確だった。なるほど、さっきの鬼と言うのは私の事だったのか。
「それでは、鬼とは?」私が質問すると、
「鬼とは、人にはない力があるモノ。」ヨウが言った。
「鬼とは、人とは違う姿をしたモノ。」マサルが言った。
「鬼とは、人とは違う精神をもつモノ。」ヒロキが言った。
「鬼とは、人ではいられなかったモノ。」ハルカが言った。
どうだと言うように、4人のドヤ顔が私の方を向く。とりあえず頷けば、4人は良かった良かったと満足そうだ。ちょっと意味がよくわからないけど、若くて、元気で、かわいい。
「それで、お姉さんはこれからどうすんの?」
どうすると言われても・・・って私への質問じゃなかった。
「まぁ、しばらく家にいればいいだろ。」シゲさんがあっさり言った。
「いいんですか?」
「どうせ行くとこないでしょ。」
一瞬、幸人なら見えるかもと思ったが、別れた男のところへ行くわけにもいかないかとすぐに却下した。
「すいません。お願いします。」
「いいよ。よくある事だし。」
よくある?
「ヒロキ、おじさんに誰かいい後見人がいないか聞いてみてよ。」
「今留守だから、帰ってきたら聞いてみる。」
「私のですか?」
「そう、ヒロキのところのおじさんは顔が広いから、似たような境遇の人を知ってるだろ。あんたには、これからの生き方を示してくれる先輩が必要だ。」
「・・・そう・・ですね。よろしくお願いします。」
私は後ろを向いてヒロキにぺこりと頭を下げると、「いいよ。」と大人びた返事が返って来た。そうか、先の事を考えないといけないのか。当たり前のことだけど、シゲさんに示されて初めて思いいたった。
「そう言えば最近見てないね。」ハルカが言った。
「旅に出ている。」
なかなか自由なおじさんの様だ。




