第92話 今日のお風呂は?
私は風邪を引いて、クラーナに看病をしてもらっていた。
夕食も食べられて、私は順調に回復していると思う。
そんな中、お風呂の時間がやってきた。いつもなら、二人で一緒に入る所だが、今日はそういう訳にもいかない。
「クラーナ、私はお風呂に入らないから、今日は一人で入ってね」
「え? ああ、確かに、お風呂は駄目ね」
風邪を引いている身で、お風呂に入るのは危険だ。そう判断した私は、クラーナにそう言うことにした。
クラーナも理解しているのか、ゆっくりと頷いてくれる。ただ、少し考えるような仕草をしているのがどういうことなのだろうか。
「今日は私もやめておこうかしら……」
「え?」
そんなことを考えている私に、クラーナがそう言ってきた。どうやら、クラーナもお風呂に入らないつもりのようだ。
「どうして?」
「だって、アノンと離れたくないもの」
「え……」
クラーナは私と離れないために、お風呂に入らないらしい。その理由は、流石にどうかと思ってしまう。
「私は大丈夫だよ? お風呂なんて、数分だし、そんなに問題はないよ」
「アノンが大丈夫でも、私が大丈夫じゃないわ。こんな時に離れるなんて、心配でどうにかなりそう……」
お風呂を勧める私に、クラーナはそんなことを言ってきた。
どうやら、私のことをかなり心配してくれているらしい。少し心配しすぎている気もするが、それ自体はとても嬉しいことだ。
ただ、お風呂に入らなくて、クラーナは大丈夫なのだろうか。
「でも、いいの? お風呂に入らないと、匂いとか汚れとか、色々大変だよ?」
「問題ないわ。犬の獣人は匂いなんて、気にならないもの。この嗅覚で気にしていたら、大変だもの」
「まあ、そっか……」
犬の獣人は、人間よりも鼻が効く。そのため、多少の匂いなど気にすることなどないのだろう。
というか、クラーナは私がお風呂に入らなかった時、匂いが濃くなっていいとさえ言っていた。つまり、匂いについては何も問題がないということだ。
「ただ、汚れについては気になるかもしれないわね。まあ、後で体でも拭きましょうか。それで、汚れも匂いもなんとかなるはずだし」
「うん。それなら、いいかな……」
汚れについては、クラーナも気になるらしい。だが、体を拭いて汚れを落とすつもりのようなので、とりあえずは大丈夫なのだろう。
「アノンの体も、拭いた方がいいわよね」
「あ、うん。お願いできるかな?」
「ええ、もちろんよ」
体を拭いて欲しいのは、私も同じだった。
先程から汗などによって、体はかなり変な感じだ。本来なら、お風呂に入って洗い流したいのだが、それができない。
となると、体を拭いて少しでもすっきりしたいのだ。ただ、体が動かしにくいので、クラーナに頼むことになってしまう。
「それじゃあ、早速拭きましょうか。準備するから、少し待っていてね」
「あ、うん」
そう言って、クラーナは部屋を出ていった。恐らく、すぐに戻ってくるだろう。
こうして、私はクラーナに体を拭かれることになるのだった。




