第79話 湯船の中でも
私とクラーナは、お風呂に入っていた。
色々とあった後の入浴だ。
私はクラーナを後ろから抱きしめるような形で、湯船の中に座っている。
「ふう……」
「アノン、どうしたの?」
「あ、うん。いい湯だなって……」
「……そうね」
私の言葉に、クラ―ナがゆっくりと頷く。
先程色々とあったため、湯船が身に染みる。
流石に、少し疲れてしまっているのだ。
「お風呂は温かいし、アノンも温かいし、本当に最高よ」
「クラーナ……?」
クラーナはそう言って、体を反転させる。
私に覆いかぶさるような形になったのだ。
「ん!?」
「ん……」
クラーナはその状態で、キスをしてきた。
さらには、私の体に手を回し、抱きしめてくる。
「……クラーナ、どうしたの?」
「また、したくなってきたわ……」
「え? ど、どうして……?」
「だって、さっきから背中に当たっているんだもの……」
「え? ああ……」
どうやら、クラーナはまたも私の胸に興奮してしまったらしい。
確かに、背中には当たっていたが、それくらいでこうなってしまうのだろうか。
なんだか、クラーナの理性が外れやすくなっている気がする。
「背中にって、さっき散々触ったのに……」
「それは、そうだけど……」
「クラーナ、なんだか、興奮しすぎなんじゃないかな?」
そこで、私はクラーナに聞いてみることにした。
もしかしたら、犬の獣人故に、そうなりやすい理由とかがあるのかもしれない。
「……そうかもしれないわ」
「うん、そうだよね」
「ごめんなさい、アノン。私、自制できていないわね」
「あ、いや、責めている訳じゃないけど……」
私の質問に、クラーナは少し落ち込んでしまった。
そんなつもりで言った訳ではないので、私も困惑してしまう。
「きっと、アノンと恋人になれて、浮かれていたのね……」
「え?」
「今まで、ずっと我慢していたから、求めてしまったんだと思うわ……」
「クラーナ……」
どうやら、クラーナは浮かれていたようだ。
そのため、私を求めてしまった。確かに、それは納得できる。私も、少なからず浮かれているのは自覚しているからだ。
恋人になってから、関係性が変わり、今までできなかったことができるようになった。その事実は、とても大きいものである。
「……クラーナの気持ちは、わかるよ」
「アノン……」
「確かに、恋人になってから、色々とできるようになって、浮かれているかもしれないね」
「ええ……」
私の言葉に、クラーナの顔が少し明るくなった。
共感を示されたので、嬉しくなったのだろう。
「アノン、今日はもうやめておきましょう」
「え?」
「こんなに自分が発情しているなんて、よく考えたら恥ずかしいわ。もっと、自制できるように、努力する」
そこで、クラーナがそんなことを言い出した。
それは、とても立派な心掛けだとは思う。
ただ、ここまでされて、何もしないというのは、少しだけ嫌な気もする。
「アノン……少し、残念そうね?」
「え? いや、そんなことは……」
「自制は、明日からでもいいのかしら……」
「あ、えっと……」
私の様子を見抜いたようで、クラーナがそう言ってきた。
どうやら、私達はまだ自制には程遠いようである。




