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第7話 名前で呼んで欲しい

 私は食事を終えて、休憩していた。

 クラーナは、食器などを片付けてくれている。


 私も手伝いたかったが、手を怪我しているため、それはできない。

 なんだか、申し訳なかったが、クラーナは「気にしないで」と言ってくれた。

 本当に優しくて、いい人だ。


「ふうー」


 私はソファに座りながら、うとうとしていた。食事後で、特にやることもないため、眠気が襲ってきたのだ。


「あなた、食べた後にすぐに寝るのは駄目よ」

「あ、ごめん。つい……」


 そんな時、片付けが終わったらしいクラーナが近づいてきた。

 そのおかげで、だんだんと目が覚めてくる。


「まあ、わからなくもないけど、体に良くないわよ」

「うん、気をつけるよ」

「……隣に座ってもいいかしら?」

「もちろん」


 クラーナが、私の隣に座る。

 ここは、クラーナの家なんだから、遠慮する必要なんてないのに。


「あなた、手は大丈夫かしら?」

「うん、問題無いよ。ちょっと痛いけど」

「それなら、よかったわ……」


 クラーナは、そう言って、安心したような笑顔を見せてくれる。


「う……」

「うん?」


 なんだか、とても眩しい笑顔だったので、私は少しドキドキしてしまう。

 その様子をおかしく思ったのか、クラーナが話しかけてくる。


「どうかしたの?」

「その……」


 どうしよう。素直に言ってもいいのかな。

 でも、隠しても仕方ないことだし、言うしかないか。


「クラーナの笑顔が……可愛くて……」

「なっ!」


 私の言葉で、クラーナの顔が赤くなる。


「きゅ、急に何を言い出すのよ!」

「だって、クラーナが聞いてきたから……」

「それは! ……そうだけど」


 クラーナは、意外と素直に認めてくれた。

 話が早くて、とても助かる。


「悪かったわね。あなたに非がある訳ではないし、そもそも褒め言葉なのだから、こんな反応する必要ないのよね」

「うん……」


 そこで、私はあることに気づいた。


「ねえ、クラーナ」

「何かしら?」

「その、クラーナって、私の名前を呼んでくれないよね」

「あ、いや、それは……」


 私の名前であるアノンと、クラーナは全然呼んでくれていない。

 それが悪いという訳ではないが、せっかくだから呼んで欲しいと思ってしまう。


「呼びたくないならいいけど……」

「……のよ」

「え?」

「恥ずかしいのよ! 悪かったわね!」


 クラーナが、私の名前を呼んでくれないのは、恥ずかしいかららしい。

 なんというか、可愛らしい理由だった。

 別に悪いことではないと思う。


「そうだったんだね。それじゃあ、別に……」

「いいわ。名前で呼ぶわ。いい……」

「あ、うん……」


 クラーナは、顔を赤くしながら、深呼吸する。

 そして、意を決したような表情で呟いた。


「……アノン」


 私の名前を。


「何かな? クラーナ……」


 それだけのことが、なんだかとても嬉しくて。

 私は、にっこりと笑うのだった。

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