第57話 出入口へと向かって
私とクラーナは、犬の獣人達が暮らす隠れ里に迷い込み、一晩を過ごした。
いよいよ外の世界に帰れるという時、人間を嫌う犬の獣人達に囲まれてしまったのだ。
そんな私を助けてくれたのは、クラーナである。
クラーナの言葉によって、犬の獣人達は武器を落としていくのだった。
「……アノン、大丈夫?」
「あ、うん……」
全てを言い終わったクラーナは、私に近づいてそう言ってくる。
その表情は、とても心配そうだった。
ただ、私は色々と言われたものの、傷一つついてはいない。
何かされる前に、クラーナが助けてくれたのだ。
「アノン? 顔が赤いわよ?」
「え? あ、いや、これは……」
「どうして目を逸らすの? ちゃんと、私の顔を見て」
私の様子をおかしく思ったのか、クラーナがそう聞いてくる。
私は今、ある理由から、クラーナの顔をまともに見られずにいた。
それは、クラーナに助けられて、自身の感情が爆発してしまったからだ。
今までも、ずっと思っていたことだが、この出来事でもう隠すのが無理そうになってしまったのである。
「お主らよ」
そんな私とクラーナに、ある人物の声が聞こえてきた。
その人物とは、この隠れ里の長老である。
「すまなかったな……この者達が」
「ええ、まったくよ。ここの住民は、何もわかっていなかったようね」
「そうじゃな……」
謝る長老に対して、クラーナはそう言う。
クラーナの言葉は、とても素晴らしいものだった。
思えば、クラーナは最初に会った時も、人間の私を助けてくれたのだ。それが、クラーナが人間でも差別していないという証拠なのである。
しかし、そんなことは中々できることではない。
やはり、クラーナはすごいのだ。
「それで、出入り口は、開いているのかしら?」
「む?」
「ここに留まっておく理由なんてないもの。早く帰りたいわ」
「……そうか。後もう少しで開くはずじゃ」
クラーナは、端的に長老にそう聞いていた。
どうやら、ここでのことは気にせず、帰りたいようだ。
これも、クラーナの優しさだろう。
「アノン、行きましょうか?」
「……うん」
クラーナが、私の手を握ってくる。
こうして、私達は元の世界に変えるために、出入り口の方に向かうのだった。
◇◇◇
「あら?」
「あれ?」
元の世界との出入口に向かっていた私達は、足を止めていた。
道の先に、見知った顔が見えたからだ。
「サトラさん?」
「ああ、二人とも、さっきぶりだね」
そこにいたのは、私達を止めてくれたサトラさんだった。
どうして、ここにいるのだろうか。
疑問に思った私だったが、それよりも前に言うべきことがあった。
「サトラさん、ごめんなさい。何も言わずに去ってしまって……」
それは、あの騒ぎの後、何も言わず去ったことへの謝罪である。
迷惑をかけてしまったのに、何も言わなかったのは失礼だ。
「ああ、それは大丈夫。あれで、こちらに戻ってくるのも変だしね」
私の謝罪を、サトラさんは笑って許してくれた。
「それに、謝らなければならないのは私の方だしね」
「え?」
そこで、サトラさんの表情が変わる。
サトラさんが、謝らなければならないこととは、一体なんだろう。
「私は、君達の仲を引き裂こうとしていたんだ。本当に、すまなかったね」
「え?」
「やっぱり、そうだったのね」
「ええ?」
サトラさんの言葉に、私は驚いた。
しかし、クラーナはそれを予想していたようだ。
私は、訳がわからなくて、困惑してしまうのだった。