第55話 朝も我慢できなくて
カーテンの隙間から差してくる光に、私は目を覚ます。
どうやら、もう朝らしい。
私とクラーナは、犬の獣人達が暮らす隠れ里に迷い込んでいた。
そこで私達は、サトラさんという人間にも理解がある人の家で、一晩を過ごしたのだ。
昨日の夜は、色々とすごかった。
「アノン……?」
「あっ……クラーナ? 起きた?」
隣のクラーナも、目覚めたようである。
「朝なのね……」
「うん、朝だよ」
クラーナは体を起こしながら、周囲をも渡す。
そして、その表情を少し変える。
「やっぱり、ここだと、あまり落ち着けないわね」
「え? そう?」
「ええ、寝ている間も警戒していたから、少し疲れたわ」
「あ、そうなんだ……」
どうやら、クラーナは完全に眠れてはいなかったらしい。
昨日から、クラーナは周囲を警戒していた。それは、寝る時まで変わっていなかったようだ。
なんだか、それは少し辛い。
「クラーナ、大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。むしろ、今はやっとここから出られると安堵しているくらいだわ」
「クラーナ……」
クラーナの言葉で、私も思い出す。
今日は、いよいよ元の世界に帰れる日なのである。
やっと、元の生活に戻れるのだ。
そう思うと、なんだか嬉しかった。
私も、こちらの世界は居心地がいいとはいいがたかったので、帰れるのはとても嬉しいのだ。
「もうこんな所、二度と来たくないわ」
「ク、クラーナ……」
クラーナは、さらにそんな言葉を重ねる。
どうやら、この隠れ里がとても嫌いになったようだ。
同族のいる場所なので、そこまで嫌いにならなくてもいいと思うのだが、クラーナにも色々あるのだろう。
「だって、ここにはアノンと来られないもの。そんな場所、私にとってはまったく意味のない場所だわ」
「クラーナ!」
そこで、クラーナはそう思った理由を話してくれた。
その言葉が嬉しくて、私は思わずクラーナに抱き着いてしまう。
「ありがとう、クラーナ。私、とっても嬉しい……」
「……アノン」
私の言葉に、クラーナは抱きしめ返してくれた。
それで、私の理性は限界を迎えてしまう。
「ん……」
「んん!?」
私は、クラーナの唇を奪っていた。
クラーナに色々言われて、無性にそうしたくなったのだ。
クラーナは少し驚いたようだが、すぐに受け入れてくれる。
私達は、しばらくそうして過ごすのだった。
◇◇◇
私とクラーナは、台所に来ていた。
そこでは、サトラさんが料理を作ってくれている。
「あ、おはようございます、サトラさん」
「おはよう……」
「ああ、おはよう、二人とも。昨日はよく眠れたかな?」
「……はい、お陰様で」
サトラさんの質問に、私はそう答えた。
クラーナはあまりいい睡眠ができていなかったが、泊めてもらっているのに、そんなことを言う訳にはいかないのだ。
「まあ、座ってよ。もうすぐ朝食ができるからさ」
「ありがとうございます」
サトラさんに言われて、私とクラーナは椅子に座る。
こうして、私とクラーナは朝食を頂くのだった。




