第46話 楽しそうな後ろ姿
基本的に、料理はクラーナが担当してくれている。私ももちろん手伝うが、味付けなど重要なことはいつも彼女が担当してくれているのだ。
手伝うことがなくなった段階で、私は食器などを出したりすることも多い。そんな時に見えるのは、クラーナの後ろ姿だ。
「うーん……まあ、こんなものかしらね」
クラーナは、尻尾を揺らしながら料理をしている。彼女にとって、それだけ料理が楽しいことであるということなのだろう。
「……アノン、味見してみて?」
「あ、うん」
「アノン?」
そんな彼女がこちらを向いて、小皿に入ったスープを渡してくる時の笑顔はとても眩しかった。輝かしいその笑顔に、私は思わず見惚れてしまう。
「なんでもないよ。それじゃあ、いただくね」
「ええ……」
クラーナは、私のことを期待と不安を含んだ瞳で見てくる。
これだけ料理上手な彼女でも、やはり不安はあるようだ。自分の味覚と私の味覚に差があるかもしれないと思っているのだろうか。
そんなことはあり得ないと私は思っている。だが、やはりきちんと味わってみて、言葉にする必要があるのだろう。
「……うん。いつも通り美味しいよ?」
「そう。それなら良かったわ」
私の言葉に、クラーナは先程までよりも激しく尻尾を振ってくれた。それだけ喜んでいるのが伝わってきて、こちらも嬉しくなってくる。
「ふふ、やっぱりアノンが美味しいと言ってくれるのが一番嬉しいわね……」
「そ、そう言ってもらえるのは私も嬉しいかな……」
「あら、それなら何度でも言ってあげるわ。私はアノンに美味しいって言ってもらえる度に、とても嬉しいと思っているわ」
「そ、それなら、私も何度も美味しいって言わないとね……」
「ふふ、自覚していないのかもしれないけど、アノンは結構美味しいと言ってくれているわよ?」
「え?」
クラーナの言葉に、私は少し驚いた。そんなに美味しいと言っている覚えが、恥ずかしながらなかったからだ。
ただ、私は自分が思っていた以上にその言葉を口にしていたらしい。そんな風に無自覚で言うということは、私は本当に心からクラーナの料理を美味しいと思っているということなのだろう。
「まあ、私はクラーナの料理が大好きだからね……もちろん、自分でも作れるようにはなりたいとは思っているけど、多分料理ができるようになってもそれは変わらないかな」
「あら? それなら、私だってアノンの料理が大好きよ?」
「え? でも、私の料理なんて……」
「アノンが作ってくれたということが重要なのよ」
「そ、そうなの?」
私の拙い料理でも、クラーナは大好きであると思ってくれているようだ。
それは、とても嬉しかった。ただ、できれば実力が伴ってからそう言ってもらいたいので、精進する必要があると私は思うのだった。




