第43話 依頼中の負傷
「痛っ……」
「アノン、大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫。少し痛いけど、問題ないよ」
依頼の最中、私は魔物の攻撃によって傷を負ってしまった。
といっても、掠り傷である。これくらいはなんともない。
「問題ないなんてことはないわ。すぐに治療しないと」
「そうだね。薬と包帯と……」
「アノン、手を出して」
「……どうするつもり?」
「舐めるの」
クラーナの返答は、私が思っていた通りのものだった。
犬の獣人であるクラーナは、舐めることによって治療を行う。それは、出会ってすぐにわかったことだ。
もちろん、実際に効果はあるのだろう。だが、やはりいささか気が進まない。魔物の爪によってできたこの傷は、あまり舐めていいものではないと思う。
「傷口を舐めるなんて、よくないよ。水を出してくれないかな?」
「アノンは、私に舐められるのが嫌なの?」
「嫌じゃないよ。でも、綺麗な場所ではないし、クラーナの方に何かあったら大変だし」
「大丈夫よ。こう見えても結構丈夫だもの」
クラーナが丈夫であることは、私も理解している。人間よりも優れた肉体を持つ彼女は、私達人間よりも色々と耐性があるだろう。
でも、万が一ということもある。そもそも、水で洗い流して薬を塗ればいいのだから、それで問題はないだろう。
「水で流して薬を塗ればいいんだから……」
「私の唾液にも、効果があるわよ?」
「それは、わかっているけど……」
「薬なんかに、負けていられないわ」
「いや、そこに対抗心を燃やす必要はないと思うんだけど……」
私は、傷口を水で流す。すると、クラーナは薬を用意してくれる。
色々と言っていたが、私の判断に従ってくれるつもりらしい。少し、不満そうな顔はしているが。
「……もしも、舐めてくれるなら唇とかの方がいいかな」
「え?」
「家に帰ってからいっぱいキスして欲しい。そうしたら、痛みも和らぐと思うから」
「……そう、わかったわ。それなら、いっぱいキスしてあげる」
私の言葉に、クラーナは笑顔を見せてくれた。
傷を負ってしまったのは不幸なことではあったが、このようにいっぱい触れ合える理由を作れたのは良かったかもしれない。いや、こんな理由がなくても言えばクラーナは応えてくれたとは思うが。
「……でも、とりあえず、んっ」
「んっ……」
「さて、包帯を巻きましょうか」
「う、うん……」
私に一度キスをしてから、クラーナは私に包帯を巻いてくれた。
触れるだけの一瞬のキスであったが、それだけでなんだか元気が湧いてきた。傷の痛みも和らいだような気がする。




