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第27話 手で食べさせるとは

 結局、クラーナを撫でるのは、夕方まで続いた。

 つまり、朝も昼もクラーナとじゃれ合って過ごしたということだ。


 今は、それも終わり、夕食の時間である。


「今回もおいしそうだね?」

「ふふ、ありがとう」 


 目の前には、クラーナが作ってくれた料理が並べてあり、とてもおいしそうだ。


「それじゃあ、いただきます」


 私の手が治ったため、今回は自分で食べる。

 少し、残念な気持ちはあるけど、クラーナも自由になるし、これでいいのだろう。


「あっ……」

「うん?」


 そこで、クラーナが声をあげる。

 何か、問題でもあったのだろうか。


「どうしたの?」

「あ、その……頼みたいことがあって……」

「頼みたいこと? 何かな?」


 どうやら、何か頼みたいことがあるようだ。

 食事前に頼むこととは、一体なんだろう。


「アノンに……食べさせて欲しいの」

「へ?」


 クラーナは、そんなことを言ってきた。


「食べさせて欲しい? 今までの私みたいに?」

「少し違うけど……アノンの手で食べ物を食べたいのよ」

「手で?」


 クラーナの提案は、そのようなことだ。


 食器などを使わず、手で食べさせるということだろうか。

 それはつまり、私の手を舐めたいという気持ちなのかもしれない。


「その、邪な感情がないとは言わないけど……」

「あ、いや、大丈夫、嫌な訳じゃないよ」


 クラーナが心配そうな顔で、何か言おうとしたので、私は先にそれを制する。

 クラーナの提案を、断ろうなどと思ってはいない。ちょっと、疑問に思っただけだ。


「じゃあ、どれがいいのかな?」

「そこの豆を手に乗せてくれるかしら?」

「あ、うん」


 私は、豆を自分の手に乗せていく。


「これで、いいの?」

「ええ、そのままでいいわ……いただきます」

「あ、どうぞ……」


 クラーナが、私の手に顔を近づけてくる。

 よく考えれば、手に乗せるというのはこういう食べ方になるのか。


「あむ……」


 クラーナが、私の手から豆を食べていく。


 口で器用に豆をとっているが、端から見れば、いい食べ方には見えないだろう。

 しかし、動物の食べ方でいえば、これは普通のことだ。よって、これも犬の獣人が持つ性質なのだろう。


 後、食べる時に、クラーナの唇が手に当たって、少し恥ずかしい。


「あむ、あむ」

「……」


 先程、いい食べ方に見えないと思ったが、顔を低くし、手を使わず食べる姿がだんだんとかわいく見えてくる。


「ペロ……」

「あっ……」


 そこで、豆がなくなったようで、クラーナが手を舐めてきた。

 これは、綺麗にしてくれているのだろうか。いや、もしかしたら、続きを催促しているのかもしれない。


 私がそう考えていると、クラーナは椅子に座り直していた。

 どうやら、これで終わりのようだ。


「ありがとう、おいしかったわ。ごちそうさま」

「あ、うん」

「それじゃあ、普通に食べましょうか」

「あ、うん、そうだね」


 クラーナの要求は、それだけで終わり、普通に食事することになった。

 先程の行動に、なんの意図があったのかはわからないが、まあ、大丈夫だろう。なんの意図があっても、私は構わないのだから。

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