第33話 森の中で
私とクラーナは、アンナさんとカルーナさんとともにエルトニデアの近くの森の中を進んでいた。
この先には、デビルベアの住処があるはずだ。魔物の住処というのは、それなりにわかっている。その辺りを調査する依頼もあるからだ。
ただ、そういった依頼は中々危険度も高い。当然のことながら、住処にいる魔物に襲われる可能性があるからだ。
そのため、普通は隠密行動をする。だが、今回の目的はデビルベアの住処にいるはずの魔物の討伐だ。私達は、そこに乗り込む必要がある。
「……魔物が近くにいるわ」
「……わかるんだね?」
「ええ、私は鼻が利くのよ」
「なるほど、犬の嗅覚と同じようなものということかな?」
「ええ、そういうことよ」
そもそもの話、森の中というのは多くの魔物がいる場所だ。
そこを進んでいくということが、既に危険なことである。
そういった時に強力なのは、クラーナの鼻だ。彼女は、匂いによって魔物の接近などを感知してくれる。奇襲されないというのは、とても重要なことなのだ。
「だけど、大丈夫……そいつらはこっちに近寄ってこない」
「……どうして?」
「私の闘気が、そいつらを近寄らせない……」
「闘気……」
次の瞬間、私はアンナさんの雰囲気が変わったのを感じていた。
今の彼女には、何か特別な迫力がある。
「……確かに、魔物が逃げているわね」
「これで森の中でも安全に進めるだろう。もっとも、私の闘気を理解できない魔物やものともしない魔物はこちらに来るだろうけど」
「……今の所、こっちに近づいていた魔物は皆逃げ出したわね」
「本当に便利な鼻だね?」
アンナさんの闘気は、魔物の本能的な部分に伝わったようだ。
狂暴な獣も、圧倒的な実力がある相手に近寄ろうとは思わない。恐らく、そういうことなのだろう。
アンナさんは、本当にかなりの実力者であるようだ。その闘気からそれが伝わってくる。
◇◇◇
しばらく森の中を進んだ私達は、デビルベアの住処の近くまで来ていた。
調査によると、この辺りに生息しているはずなのだが、辺りを見渡してもデビルベアは見当たらない。
もちろん、大まかな生息地しかわからないので、偶々この辺りにいないだけという可能性もある。だが、私達を襲ってきたことを考えるとここから逃げ出したと考えるべきだろう。
「……魔物の匂いがするわ」
「新手の魔物なのかな?」
「……そうかもしれないわ」
そこでクラーナは、魔物の匂いを感じ取ったようだ。
流石に彼女の鼻でも、どのような魔物が近づいているかはわからない。
もしかしたら、デビルベアかもしれない。だが、新手の魔物の可能性もある。
「……あら?」
「クラーナ? どうかしたの?」
「なんだか、魔物とは違う匂いがするわ。人の匂いかしら? でも、少し違うような気もするけど……」
さらにクラーナは、魔物以外の匂いを感じ取ったようだ。
しかし、こんな森の中に人がいるだろうか。少なくとも、普通の人がいる訳はないので、冒険者だろうか。
「……なるほど、どうやら私達の目的も果たせるみたいだ」
「うん、多分そうだよね……薄々、そうかもしれないとは思っていたけど」
「え?」
悩んでいる私達の横で、アンナさんとカルーナさんはそのように会話を交わした。
彼女達は、人を探していたはずだ。その人物は、罪人だと聞いている。ということは、まさかその人物が新種の魔物を操っているということなのだろうか。
「クラーナさん、魔物達がどちらの方向にいるかわかりますか?」
「ええ、あっちの方向よ」
「……それでは」
クラーナに質問してから、カルーナさんは自らの手に火球を発生させた。
そして、それをそのままクラーナが示した方向に投げつける。
「……ばれていましたか!」
次の瞬間、私達の前に何者かが現れた。
その人物は、トカゲのような頭をしている。だが、人間と同じような体をしており二足歩行だ。
青白い肌をしたそのトカゲ人間に、私はアンナさんが語っていた種族を思い出した。
恐らく、その人物はリザードマンなのだろう。見た目の情報から、私はそれを悟るのだった。




