第31話 三人の母親
私とクラーナとラノアは、シスターに連れられてお墓に来ていた。
そこは、身寄りのない人達が眠っている場所らしい。
ラノアのお母さんやその他行き場のなかった人達は、最後にシスターを頼ったそうだ。
そんな人達をシスターは、この場所に埋葬した。ここは、そういった人達が最後に安寧を得られる場所なのだろう。
「……ここが、ラナティリアの眠っている場所です」
「……お母さん」
母親のお墓の前で、ラノアはゆっくりと膝をついた。
彼女の目には涙が浮かんでいる。親子の久し振りの再会だ。それも無理はないだろう。
「あのね……私は今、元気だよ。お母さんは、見ててくれたかな? 私は、アノンとクラーナに出会って、二人と一緒に暮らしているんだ。二人とも、すごくいい人でね……すごく幸せなんだ」
ラノアは、ゆっくりとそう語った。
母親を失い、ラノアは犬の獣人の里を目指した。その道中、彼女は私達と出会い、親子として共に暮らすようになったのである。
ラノアにとって、その出会いは幸せなものだったようだ。理解していたつもりではあったが、こうして改めて言葉に出されるとなんだか私も泣きそうになってしまう。
「……ラナティリアさん、アノンです」
「……私は、クラーナです」
私とクラーナは、それぞれラノアの横で膝をついた。
ラノアのお母さんには、きちんと挨拶しておかなければならない。今の彼女の親として、それは絶対に必要なことだ。
「挨拶が遅くなってすみませんでした。私達は、ラノアの親をさせてもらっています」
「ラノアのことは、必ず幸せにしてみせます。あなたの前で、私達はそれを誓います」
私とクラーナは、少し緊張していた。
ラノアのお母さんは、私達のことを認めてくれるだろうか。それが少しだけ、怖かったのである。
もしかしたら、怒っているかもしれない。そんな考えが頭を過ったのだ。
「……二人とも、なんだか他人行儀だね?」
「え?」
「ラノア?」
そんな私達に、ラノアは腕を絡めてきた。
彼女は笑顔を浮かべている。その明るい笑顔はとても眩しい。
「お母さん、私はアノンとクラーナのことが大好きなんだ。二人と出会えて、娘として迎えてもらって、本当に幸せなんだ。私には、三人もお母さんがいる。贅沢だよね」
「ラノア……」
「あなた……」
ラノアの言葉に、私達は泣きそうになっていた。
彼女は、私達のことを親としてこんなにも慕ってくれている。それが嬉しくて仕方なかったのだ。
私達は、これからも彼女と共に生きていく。彼女のお母さんに胸を張れるように、ラノアを幸せにすることを、私達は改めて心に誓うのだった。




