第30話 教会での再会
私とクラーナとラノアは、冒険者ギルドを後にして、教会まで来ていた。
ここは、アンナさんとカルーナさんが来て欲しいと言っていた場所だ。そして同時に、ラノアが来たがっていた場所でもある。
「……失礼します」
私は、ゆっくりと教会の戸を開けて中に入った。
中には、アンナさんとカルーナさんがいる。彼女達は、初老のシスターらしき女性と会話をしている。
「……え?」
すると、そのシスターは私達の方を見て目を見開いた。
その視線が、どこに向いているかはわかっている。明らかに、ラノアだ。
「ラノア……」
「シスター、久し振り」
「どうしてあなたがここに?」
「色々とあって、連れて来てもらったんだ。アノンとクラーナに」
ラノアは、ゆっくりとシスターに近づき、そのような会話をしていた。
シスターと呼ばれた女性は、私とクラーナの顔を見た後、再度ラノアに目を向ける。
「そうですか……風の噂で、無事であるとは耳にしていましたが、この目で実際に見られて安心しましたよ」
「シスター、私が無事だって知っていたの?」
「ええ、あなたがいなくなった後、しばらく情報を集めていましたからね」
シスターは、安心したように笑みを浮かべていた。
その笑みを見ればわかる。彼女が、ラノアのことを心から心配してくれていたと。
まだ詳しくは聞いていないが、彼女はこの町においてラノアの味方だったそうだ。少なくともこの人は、獣人に対する差別的な意識を持っていないということなのだろう。
「つまり、お二人がアノンさんとクラーナさんなのですね」
「あ、はい……」
「お噂は聞いています。あなた方も、色々と大変だったそうですね……」
「それはまあ、はい」
シスターは、私達の事情もある程度知っているようだ。
罪人の娘である私と犬の獣人であるクラーナ。そんな私達でも、彼女は態度を変えない。いや、それ所か彼女からは敬意すら感じられる。
「ラナティリアも、安心していることでしょう……ラノアが、あなた達のような素晴らしい方々と一緒で」
「ラナティリア? もしかして、その人は……」
「ええ、ラノアの実の母親です」
シスターが呟いた人物の名前に、私とクラーナは顔を見合わせた。
ラノアの実の母親の話を聞くのは、実は随分と久し振りだ。なぜなら、ラノアはその人のことをあまり話さないからである。
思い出すと悲しいからなのか、はたまた私達に気を遣っていたのか、それはわからない。だが、彼女の名前が出てラノアが明るい顔をしていないことは事実である。
「ラノア、あなたの気持ちはわかっています。しかし、あなたがここに来たということは、心の整理がついたということなのでしょう?」
「……うん」
「……それなら、行きましょう。ラナティリアもきっと待っていたはずです」
「そうだよね……」
シスターの言葉に、ラノアはゆっくりと頷いた。
どうやら、ラノアがこの町に来たのは母親と会うためでもあったようだ。それなら、私達も挨拶しておく必要があるだろう。今のラノアの親として。




