第29話 追っている魔物は
「まさか、アノン達まで同じ魔物を追っていたなんて驚きだよ。そういえば、町で隣町の有力な冒険者に頼むと言っていたね?」
「うん、でもまさかそれがアノンさんとクラーナさんだったとは思わなかったけど……」
私とクラーナとラノアは、アンナさんとカルーナさんとともにエルトニデアに向かっていた。
彼女達の目的は、私達と同じである。エルトニデアを苦しめる魔物を退治することだったのだ。
「アンナさんは、エルトニデアに住んでいるんですか?」
「いや、そういう訳ではないよ。私達も旅人なんだ」
「旅人?」
「それで、偶々立ち寄った町で魔物の噂を聞いてね。困っている人を放ってはおけないし、魔物を退治しようと思ったんだ」
よく考えてみれば、二人が旅人であるのは当然である。
なぜなら、これ程強い冒険者が町にいるなら、私達に頼む必要がないからだ。明らかに私達以上の実力はあるし、二人がすぐに事件を解決していただろう。
「それに、私達の目的にももしかしたら魔物が関係しているかもしれない。これは、まあ推測でしかない訳だけど……」
「目的?」
「ある人物を探しているんです。まあ、平たくいえば、犯罪者です」
「犯罪者? 二人は、何か法的機関の人間なんですか?」
「いや、そういう訳ではないよ。ただ、相手がそれなりに厄介な相手でね。それで、私達が出ることになったんだ」
「えっと……二人は、一体何者なんですか?」
「それは……少し難しい質問だね」
私の質問に、アンナさんは微妙な顔をしていた。
二人は、かなりの実力者である。その実力から考えて、ただの冒険者とは思えない。
例えば、法的機関の人間で、何かしらの訓練を受けていると考えれば、それも納得できなくはないだろう。だが、その線も既に消えている。そんな二人の正体は、少し気になる所だ。
「……そういえば、二人は私やラノアに偏見の目を向けていないわね?」
「え?」
「……もしかしたら、文化が違う所から来たのかもしれないけれど、この辺りでは犬の獣人に対する差別が根深いのよ」
「……そうだったんだね」
そこで、クラーナが質問をした。
確かに、アンナさんもカルーナさんもクラーナやラノアに普通に接している。最近町の方では薄れてきたが、世界的にはまだまだ犬の獣人に対する差別は消えていない。つまり、二人は珍しい側の人間なのだ。
「どこの世界でも国でも、そういうものは変わらないんだね」
「うん、悲しいことだよね」
「私もカルーナも、見た目で人は判断しない主義でね。私達の住んでいる国では、それがだんだんと普通になっている。何しろ、色々な種族が暮らしているからね」
「色々な種族?」
「悪魔、リザードマン、ハーピィ、ゴーレムやリビングアーマーまで、多種多様な種族がね?」
「え?」
「まあ、詳しくは後で話そうか」
アンナさんの言葉に驚いていた私は、自分の目の前に町があることに気づいた。
どうやら、いつの間にかエルトニデアに着いていたようだ。
「二人の目的地は?」
「……とりあえず、冒険者ギルドに向かおうと思っています」
「それが終わったら、教会に来てもらえないかな?」
「教会?」
アンナさんの提案に、私とクラーナはまたも顔を見合わせることになった。
教会、それはラノアがお世話になった人がいるという場所だったからだ。




