第27話 危険な道中
私とクラーナは、ラノアを連れて隣町への道を進んでいた。
整備された街道であるため、この道にはそれ程魔物も出てこない。
とはいえ、出現しないと言い切れる訳でもないため、いざという時は二人でラノアのことを守り抜かなければならない。
「エルトニデアに凶悪な魔物が出現したから、この街道も現在はほとんど使われていないみたいね……」
「うん、街道にしては静か過ぎるよね……」
「静かであるというのは、いいことではないわ。魔物が出現しやすくなるもの」
「そうだよね……」
私とクラーナは、ラノアを挟んで周囲を警戒していた。
いつ魔物が現れるかわからない。その緊張感に、つい顔が引き締まってしまう。
「二人とも、こんな感じなんだね……」
「え? ええ、そうね……」
「うん、まあ、危険だからね……」
そんな私達の様子に、ラノアは少し戸惑っているようだ。
ラノアにこういった依頼時の姿を見せたことはない。そのため、彼女は少し戸惑ってしまっているようだ。
「アノン……!」
「え?」
「来るんだね?」
次の瞬間、クラーナが低い声で私に呼びかけた。
その声を聞いただけでわかった。彼女が魔物の出現を察知したのだと。
「ガアアアッ!」
「グシャアアア!」
私達の目の前に現れたのは、四体の魔物だった。
その魔物達のことは、よく知っている。デビルベアという私とクラーナが初めて出会った時に戦った魔物だ。
デビルベアは、強力な魔物である。私とクラーナは、二人で何度かこの魔物を倒したことがあるのだが、このように群れているデビルベアに遭遇するのは滅多にないことだ。
「四体もいるわね……」
「デビルベアって、群れを作るんだったかな?」
「そんなはずはないわ。単独で行動するはず……親子という訳でもなさそうだし、強力な魔物が出たせいで、生態系が歪んでいるのかもしれないわね」
デビルベアが四体もいるというのは、かなりまずかった。
しかも、今回私達はラノアを守らなければならない。状況としては、それなりに厳しい状況だ。
とはいえ、私もクラーナも長年の経験によって成長している。もちろん、容易に勝てる訳ではないが、なんとかなるはずだ。
「グシャアッ!?」
「え?」
そう思って私が構えた瞬間、一体のデビルベアの額が光り輝いた。
そして、その後デビルベアが地面に倒れる音が聞こえてくる。
「アノン、何もしていないわよね?」
「うん、何もしていない……つまり、誰かがあのデビルベアを倒したんだ」
「一体、誰がこんなことを……」
デビルベアは、それなりに強力な魔物だ。それを一撃で倒す。それは、かなり難しいことであるはずだ。
ということは、これを成し遂げた者はかなりの実力者ということになる。一体、その人物とは何者なのだろうか。
「……おっと、もしかしたら手助けはいらなかったかな?」
「そんなことはないと思うよ、お姉ちゃん。あの魔物、結構強そうだし……」
そんなことを思っていると、私達の耳にそんな言葉が聞こえてきた。
同時にデビルベアの後方から二人の女性が歩いて来るのが見えてくる。
一人は真っ赤な短髪、一人は長い金髪。二人の女性は、デビルベアにゆっくりと近づいていく。
「聖なる光よ……剣となれ!」
「ギャシャアア!」
次の瞬間、デビルベアの内一体が真っ二つに切り裂かれた。
よくわからなかったが、私はとりあえずラノアの目を隠しておいた。結構、凄惨な光景が広がりそうだったからだ。
デビルベアを切り裂いたのは、赤髪の女性である。彼女の手には、剣の形をした光のようなものが握られている。
「紅蓮の火球!」
「ガアアア!」
続いて、金髪の女性の魔法がデビルベアの一体を焼き尽くした。
あのデビルベアを一瞬で燃やし尽くす。それを見ればわかる。かなりの実力なのだろう。
「シャガアアッ!」
「聖なる光よ! 盾となれ!」
残ったデビルベアは、赤髪の女性に攻撃を仕掛けた。
しかし、それは盾によって防がれた。赤髪の女性が、剣を盾に作り替えたのだ。
「聖なる光りよ……針山となれ!」
「ガシャアッ!?」
赤髪の女性は、盾から無数の棘を生み出してデビルベアを串刺しにした。
それによって、デビルベアは絶命したようだ。
二人の女性は、一瞬で四体のデビルベアを討伐してしまった。どうやら、二人ともかなりの実力者であるらしい。




