第25話 大切な時間
私とクラーナは、ベッドに寝転がっていた。
レクリアさんとレフィリーナちゃんの家にお邪魔して一日が終わり、これから就寝するのだ。
ラノアは、レフィリーナちゃんの元に行っている。そのため、今日は久し振りにクラーナと二人での就寝だ。
「ベッドも大きいのね……」
「確かに、そうだね……二人でも広いくらいだ」
「とはいえ、私達はこうやって身を寄せ合っている訳だけれど」
「ふふ、だから余計に広く感じるのかもしれないね」
「それに、ラノアもいないものね……」
私達が泊まることになった客室には、ベッドが二つあった。
だが、私達は一つのベッドに集まった。それが、私達のいつも通りなのだ。
ただ、今日はラノアがいないという違いがあった。その違いは、寂しいものである。
「まあ、私としては寂しい半面、少しだけ嬉しい気持ちもあるのだけれど……」
「嬉しい気持ち?」
「だって、アノンを独り占めできるもの」
私の質問に、クラーナは頬を染めながらそう言ってきた。
確かに、その気持ちはわからない訳ではない。ラノアにはいて欲しいが、クラーナとの時間も大切にしたい。そういう気持ちは、私の中にもあるのだ。
「私もわかるよ、その気持ち。親子の時間も大切なものではあるけど、夫婦……というべきかどうかはわからないけど、私達二人の時間も大切にしたいものだよね」
「……ええ、そうなのよ」
ラノアのことを大切に思う気持ちとクラーナと二人きりの時間を大切に思う気持ち、不思議なことかもしれないが、その気持ちは両立するのである。
考えてみれば、それは幸せなことなのかもしれない。幸せだと思える時間が、いくつもあるというのは、恵まれた環境にいるということだろう。
「……」
「アノン? どうかしたの?」
「あ、その……少し、お母さんのことを思い出して」
「お母さんのことを?」
「うん、お母さんもガランと一緒にいたかったのかなと思って……」
そこで、私は母親のことを思い出していた。
彼女と過ごした時間は、私にとってとても大切なものだった。きっと、お母さんもそう思ってくれているはずだ。
しかし、もしかしたらお母さんはもっとガランと一緒に過ごしたかったのかもしれない。そう思うと、少しだけ悲しくなってくるのだ。
「あの人は、最低の人間だったとは思うけど、それでもお母さんのことは愛していたし、お母さんもガランのことを愛していた。今考えると、そんな二人が一緒にいられなかったことは、辛いことだったんじゃないかと思うんだ」
「……そうね」
「もっとも、それはあの人が選んだことなんだけどね」
「ええ……」
クラーナは、ゆっくりと私に身を寄せてきた。
それは、きっと私を心配してくれているからだろう。その気遣いが嬉しくて、私は彼女の体を抱きしめる。
ガランが亡くなってから、私の彼に対する考え方は少しだけ変わったかもしれない。
以前よりも、毒気なく彼のことを語れるのだ。あんなに憎んでいたはずなのに。
いや、きっとそうではなかったのだろう。本当は、私だってわかっている。彼に対して、私は愛といえる感情を持っていたのだと。
きっと、それはおかしなことではない。やはり私は、長い反抗期だったのだろう。




