第19話 休日の訓練
私とクラーナは、冒険者である。その仕事は、魔物と戦うことだ。
そういう仕事をしているため、体や技術は鍛え上げておかなければならない。という訳で、休みの日でもそういった訓練をすることがあるのだ。
「あそこにある的に当てられるかしら?」
「うーん、難しそう……」
ラノアと暮らすようになってから、彼女もその訓練に参加している。
彼女は、私やクラーナの技術を学んでいるのだ。
「ああ、駄目だ……」
「まだこの距離は無理なのね……それなら、一歩近づいてみましょうか?」
「うん」
クラーナは、基本的に弓を使っている。その弓を、今ラノアは扱っているのだ。
犬の獣人は、感覚も身体能力も人間以上である。そんな犬の獣人の弓の技術は、見事なものだ。
「うーん、まだ駄目かも」
「そう……それなら、もう一歩」
「あ、ここならいけるかも」
ラノアは、クラーナが用意した的に矢を放った。
すると、その的のど真ん中を矢は貫く。
「おお、すごい」
「ええ、見事なものだわ」
「やったぁ!」
的を貫いたラノアは、手を上げて喜んだ。
近づいたといっても、それなりに距離は離れていた。そんな的を貫けるのは、充分にすごいことだといえるだろう。
「やっぱり、あなたには弓の才能があるわね」
「そうなのかな?」
「ええ、もっとも、アノンから学んだ徒手空拳も大したものだし、そちらの才能もあるのでしょうけど……」
「そんなに褒めても、何も出ないよ?」
「あら? それは残念ね」
ラノアは、私とクラーナの両方の技術を吸収している。
もしかしたら、将来はとてもすごい冒険者になれるかもしれない。
もっとも、親としては冒険者という仕事はあまり勧めたいものではない。
普通に危険な仕事であるし、できればもっと安全な道に進んで欲しいものである。
「ラノアは、将来どんな仕事がしたいとかあるの?」
「え? どうしたの? 急に?」
「ちょっと気になったんだ。聞かせてくれない?」
「うーん……」
私の質問に、ラノアは考えるような仕草をした。
将来どんな仕事をしたいか。急にそんなことを言われても、まだピンと来ていないのかもしれない。
「わからない……でも、やりたいことは、色々とあるよ」
「色々とある? そうなの?」
「うん、アノンとクラーナみたいに冒険者もいいし、お祖父ちゃんの仕事にも興味はあるし、テットアさんみたいに農家もやってみたい」
「……そっか。ラノアには、夢がいっぱいあるんだね」
「うん!」
ラノアの言葉に、私は笑顔になった。
彼女の未来は、希望に溢れている。そう思って、自然と笑みが零れていたのだ。
それは、クラーナも同じだったようである。彼女も笑顔を浮かべていたのだ。
こうして、私とクラーナは、目を合わせて笑い合うのだった。




