第17話 安心できる場所
私とクラーナとラノアは、一緒のベッドで寝ている。
時々順番を変えたりすることはあるが、基本的にはラノアを挟んで川の字で眠っていることが多い。
それは、幸せな時間だ。クラーナと二人だけの時もそうだったが、家族とこうやって一緒に眠れるのは、喜ばしいことである。
「すう……すう……」
「あら……」
「うん? クラーナ? どうかしたの?」
そんな風に三人で眠ろうとしている時、クラーナが少し驚いたような声をあげた。
ただ、その声は喜んでいるようにも聞こえる。何か、嬉しいことでもあったのだろうか。
「ラノアがね、眠っているでしょう?」
「うん。気持ち良さそうに眠っているね」
「多分ね……この子、今熟睡していると思うの」
「熟睡?」
クラーナの言葉の意味を、私はすぐに理解できなかった。
熟睡している。それは、何か特別なことなのだろうか。
しかし、そこで私はあることを思い出した。
そういえば、ラノアの睡眠は意外と浅かったのである。
いや、正確に言えば、ラノアだけではない。クラーナも、そこまで睡眠が深い方ではないのである。
「私達犬の獣人は、そこまで睡眠が深くないのよ。それは、犬の性質を受け継いでいるからと考えられているわ」
「ああ、確かに犬と人間の睡眠は違うと聞いたことがあるよ」
「ええ、まあ、周囲を警戒する必要があるのよね。眠っている間に、敵に襲われたりしたら、一たまりもない訳だし……」
「そうだよね……」
犬の獣人は、犬と人間と両方の性質を持つ。
睡眠に関しては、犬の方の性質が色濃く出ているようだ。
「だから、その性質を受け継いだ私達は、睡眠が少し浅いのよ。ちょっとのことで、起きたりするし……」
「そうだよね……クラーナもラノアも、結構起きているみたいだし」
「ええ、でも、今のラノアは完全に熟睡しているわ。これはきっと、安心しきっているからね」
「安心……」
クラーナの言葉を聞いて、私は改めてラノアの顔を見た。
彼女は、よく眠っている。その眠りは、浅いようには思えない。
「私もね、時々なんだけど、全然起きないことがあるの。それは、アノンと暮らすようになってからのことだわ」
「そ、そうなの?」
「ええ、あなたと暮らすようになって、警戒しないでいいと本能がわかるようになったのだと思うわ。まあ、もちろん、生まれ持った性ではあるから、いつもそういう訳にはいかないけど……でも、確かに変わっているわ」
「それは……なんだか、嬉しいよ」
クラーナやラノアが安心してくれている。
その事実は、私にとって嬉しいものだった。
これからも、二人が熟睡してくれると嬉しい。
私は、そんなことを思うのだった。




