第16話 よくわかる感情
目は口ほどに物を言うという言葉があるが、犬の獣人の場合は、それ以上に感情が表れる部位がある。
それは、尻尾だ。クラーナと接していると、その尻尾の様子で、色々なことがわかる。
彼女は嬉しい時や楽しい時、その尻尾を激しく振ることが多い。
そんなに振って大丈夫なのだろうか。そう思う程に激しく尻尾を振るのは、私に甘えている時とかだ。
不安な時などは、彼女の尻尾は力なく下がっている。
クラーナは、何事にもそこまで物怖じしない性格なので、そういう場面は滅多にない。
だが、彼女の大嫌いな雷が鳴っている時などには、そうなっているのを見たことがある。
依頼の時などに、彼女はその尻尾を立てることがある。
それは、周囲を警戒しているという合図なのだろう。そういう時の彼女は、周りの様子をよく見ているので、そのはずだ。
「クラーナ、こんな感じでいいのかな?」
「ええ、それで大丈夫よ。気持ちいいわ」
私は、現在そんな感情を表現する尻尾の付け根を撫でている。
クラーナは、時々そこを撫でて欲しいと言ってくる。なんでも、そこは結構こるらしいのだ。
「いっぱい動かすから、こりやすいのかな?」
「そうなんだと思うわ……多分、四六時中動かしているのだと思うし」
「動かしているという自覚はないの?」
「ええ、無意識に動かしていることが多いわ……」
「やっぱり、そうなんだ」
クラーナの尻尾は、基本的に動いている。
もしかすると、彼女の体の部位で、一番動いているかもしれない。
そんな尻尾の付け根に疲れが溜まるというのは、当たり前のことだろう。
「ねえ、アノン。一つ質問なのだけれど……あなたは、この尻尾で私の感情を読み取ったりしているの?」
「え? あ、うん。まあ、そうだね。そういうこともあるよ」
「やっぱり、そうなのね……なんというか、少し恥ずかしいような気もするわ」
私の返答に、クラーナは少し照れていた。
確かに、感情が筒抜けになっているというのは、恥ずかしいことかもしれない。
私としては、喜んでいることなどがわかりやすいので、ありがたい側面の方が多い。しかし、彼女からしてみれば、それは少し違うだろう。
「訓練とかしてみる? 尻尾を動かさないようにするみたいな……」
「まあ、意識したら、そういうこともできるようになるのかもしれないわね……でも、別にそんなことはしなくていいと、今の所は思っているわ」
「そうなの?」
「だって、アノンに私の感情が伝わっていても、別にいいもの。多少、恥ずかしいような気もするけど、あなたになら全てをさらけ出してもいいって、そう思えるわ」
「クラーナ……」
クラーナの言葉は、私にとってとても嬉しいものだった。
そこまで信頼されている。その事実に、私は笑みを浮かべるのだった。




