第14話 口直しならぬ
私は、クラーナとともに依頼に来ていた。
今日も、二人で冒険者の仕事を頑張っているのだ。
「アノン、こっちよ」
「うん!」
今は、二人で魔物を追っている最中である。
私達は、一匹の魔物に傷を与えた。しかし、仕留める前に逃げられてしまったのだ。
だが、クラーナの鼻によって、その魔物の所在は掴めた。追跡において、彼女の力はとても強力なのである。
「アノン、お願いできる?」
「任せて!」
「グギャア!」
私は、魔物に拳を叩き込む。
手負いだったこともあってか、魔物はゆっくりと倒れて、そのまま動かなくなった。
とりあえず、これでこの魔物は討伐できた。依頼達成である。
「流石ね、アノン」
「ううん、クラーナの鼻のおかげだよ。居場所がわからなかったら、攻撃することもできなかったし……」
魔物を倒せたのは、クラーナのおかげだ。
彼女の鼻がなかったら、魔物を完全に見失っていたかもしれない。
「そう? まあ、そう思うのなら、少しアノンにお願いしてもいいかしら?」
「お願い?」
「ええ、魔物の匂いを追っていたせいで、少し鼻が疲れてしまったの。だから、少しいい匂いが嗅ぎたいの」
「いい匂い?」
「ええ、アノンの匂いが嗅ぎたいの」
「私の匂い……」
クラーナの要求は、理解することができた。
今回の功労者は彼女である。そんな彼女の要求には応えるべきだろう。
「いいよ。でも、どうすればいいの?」
「じっとしていて……」
「あ、うん……わっ!」
「……少し失礼するわね」
クラーナは、私の首元に顔を埋めてきた。
そして、その後、彼女の息を吸う音が聞こえてくる。
「すー、はー……すー、はー。いい匂いだわ」
「そ、それなら、良かったよ……」
クラーナは、私の匂いを楽しんでいるようだ。
彼女が喜んでくれるなら良かった。少し恥ずかしいが、幸いである。
ちなみに、依頼の後であるため、私は結構汗をかいている。その匂いも、彼女にとってはいいものであるようだ。
「すー、はー……すー、はー。うん、もう大丈夫そう。補充できたわ」
「そう?」
「ええ、これ以上は止まらなくなってしまいそうだから、やめておくわ。早い所、魔物の解体も済ませておかなければならないし……」
「そうだね……」
クラーナは、笑顔で私から顔を離した。どうやら、もう大丈夫ようだ。
魔物の解体などの作業があるため、彼女も自分を抑制しているのだろう。
もしも、彼女が望むなら、帰った後に匂いを嗅がせてあげればいい。今は目の前のことに集中するべきである。
こうして、私達は作業を始めるのだった。




